この記事の対象: これからWebサイトの新規制作やリニューアルを検討している企業の担当者
読了時間: 約12分
「かっこいいサイトを作りたい」「今のサイトが古くなったからリニューアルしたい」——Web制作の相談は、こうした動機で始まることが珍しくありません。
気持ちはよくわかります。ただ、制作の現場に長くいると、この状態のまま走り出したプロジェクトが必ずどこかで止まる場面に出くわします。
なぜ止まるのか。理由はシンプルで、判断の基準がないからです。
「このサイトは何のためにあるのか」が決まっていなければ、デザインの良し悪しも、ページの構成も、写真の選び方も、すべて「好きか嫌いか」で決めるしかありません。関係者が3人いれば3通りの「好き」がぶつかり、修正は増え、スケジュールは延び、できあがったサイトの効果も測れない。
この記事では、目的が曖昧なまま制作を始めた場合に工程ごとに何が起きるかを整理し、目的を言語化するための具体的な手順を紹介します。
「なんとなくかっこいいサイト」で進むと、工程ごとに何が起きるか

ヒアリングの段階──要件がふくらむ
制作会社との最初の打ち合わせで「どんなサイトにしたいですか?」と聞かれたとき、目的が言葉になっていないと、代わりに出てくるのは参考サイトのURLリストです。「このサイトの雰囲気が好き」「ここの動きがかっこいい」。参考サイトを共有すること自体は悪くありませんが、それが要件のすべてになると、話が際限なく広がります。
参考サイトは見た目の好みを伝えるツールであって、「自社のサイトで何を達成するか」を決めるものではありません。目的がはっきりしていれば、「問い合わせを月に20件増やしたいから、サービス紹介と導線設計を最優先にしてほしい」と伝えられます。制作会社も提案の方向が絞れるので、見積もりのブレが小さくなります。
デザインの段階──修正が終わらない
目的がない制作で最も消耗するのがデザインの工程です。
制作会社からデザイン案が上がってきたとき、評価軸がないと「なんか違う」「もうちょっとスタイリッシュに」というフィードバックしか出せません。制作会社も困ります。「スタイリッシュ」の意味は人によって違うからです。
ここで起きるのが「好みのぶつかり合い」です。担当者は気に入っているのに上司が「もっと堅い感じに」と差し戻す。役員が「うちのコーポレートカラーが目立たない」と言い出す。社内の合意形成に何往復もかかり、制作会社への修正依頼が5回、6回と重なっていきます。
修正回数が増えると、コストにも跳ね返ります。多くの制作会社は見積もりに含まれる修正回数の上限を設けており、超過分には追加費用がかかるのが一般的です。修正の積み重ねで、最終的な請求額が当初見積もりから大きくふくらむケースも珍しくありません。
目的が明確であれば、デザインの評価基準は「好みに合うか」から「目的を達成できる設計か」に変わります。「問い合わせを増やしたいのだから、CTAボタンの視認性は足りているか」「採用応募を増やしたいのだから、社員の声は目に入りやすい位置にあるか」——こうした問いで判断できれば、個人の好みに振り回されにくくなり、社内の合意も取りやすくなります。
コーディングから公開──「とりあえず公開」で終わる
デザイン修正に時間を取られると、コーディングやテストの工程がしわ寄せを受けます。予算も期限も押した結果、「とりあえずこれで公開しよう」と中途半端なまま世に出るサイトは少なくありません。
そして公開後、上司から「で、このサイトの効果はどうなの?」と聞かれて答えに詰まります。何を達成するためのサイトなのか決まっていないので、何を測ればいいかもわからない。アクセス数を見ても「増えてるけど、だから何?」としか言えない状態です。
どの段階でも根っこは同じです。「このサイトは何のためにあるのか」が決まっていないから、すべての判断が個人の感覚頼みになってしまう。
「目的=売上を上げたい」では制作の指針にならない

「目的が大事なのはわかった。うちの目的は売上アップだ」——こう考える方は多いのですが、これだけでは制作の指針になりません。
「売上を上げたい」は経営の目標であって、Webサイトの目的ではないからです。営業力、商品力、価格設定——売上に影響する要素は無数にあります。その中でWebサイトが担う役割を絞り込まないと、「あれもこれも載せたい」の要件になり、結局全部が中途半端になります。
同じ「売上を上げたい」でも、Webサイトの役割は事業の状況によって変わります。
| 事業の状況 | Webサイトが担える役割 | 重視すべき設計 |
|---|---|---|
| 新規の問い合わせが少ない | 見込み客の獲得 | サービス説明の明確さ、問い合わせ導線 |
| 問い合わせはあるが成約率が低い | 信頼感の醸成 | 実績紹介、会社の透明性 |
| 既存顧客のリピートが弱い | 顧客との接点維持 | お知らせ更新、会員向けコンテンツ |
| 採用に苦戦している | 採用候補者への訴求 | 社風の発信、応募導線 |
大切なのは、今この時点でWebサイトに何を任せるかを決めることです。同じ企業でもフェーズが変われば答えも変わります。全部を1つのサイトに詰め込もうとすると、どれも中途半端で、訪問者にとっても「何の会社かわかりにくいサイト」ができあがります。
「目的を決める」というのは壮大な作業ではなく、「いくつかある課題の中で、Webサイトにどれを担わせるか優先順位をつける」という実務的な判断です。
目的を言語化する3つのステップ

「目的が大事なのはわかったけど、具体的にどう考えればいいかわからない」。ここからは、制作会社に相談する前に社内で整理できる手順を紹介します。
ステップ1: 今の課題を書き出す
目的は「こうなりたい」から考えるより、「今ここが困っている」から考えたほうが具体的になります。
- 問い合わせフォームには月に何件来ているか? 目標と比べてどうか?
- 営業がお客さんに会社を説明するとき、サイトを見せているか? 見せられないとしたら理由は?
- 求職者からの応募は来ているか? 応募者の質はどうか?
- 既存のお客さんがサイトを見返すことはあるか?
全部に答えられなくても構いません。「わからない」ということ自体が、現状を正しく映しています。アクセス解析のデータがあれば数字で、なければ現場の感覚で書き出してみてください。
ステップ2: 「誰に・何を・どうしてほしいか」を1文にまとめる
課題が見えたら、Webサイトの役割を1文で表現します。テンプレートはこうです。
「(誰)が(何を)して(どうなる)ためのサイト」
記入例:
- 「新規の法人顧客が、サービス内容と実績を見て、問い合わせをするためのサイト」
- 「求職者が、会社の雰囲気と仕事内容を理解して、応募を検討するためのサイト」
- 「既存顧客が、最新の製品情報を確認して、追加発注の検討材料にするためのサイト」
1文にすると、「あれもこれも」が物理的に入らなくなります。もし2つの役割を持たせたいなら、順位をつけてください。「問い合わせ獲得が第一、採用は第二」と決めるだけで、トップページの構成やメニューの優先順位に判断軸ができます。
ステップ3: 関係者全員で合意を取る
ここが最も見落とされがちで、最も重要なステップです。
担当者が目的を整理しても、上司や決裁者が別の期待を持っていたら、デザイン段階で「思っていたのと違う」と差し戻されます。前の章で触れた「修正が終わらない問題」の多くは、ここに原因があります。
制作に入る前に、少なくとも次の3点について関係者全員の認識をそろえてください。
| 合意すべき項目 | 具体的に決めること | 例 |
|---|---|---|
| ターゲット | このサイトは誰のために作るのか | 「従業員50〜200名の製造業の購買担当者」 |
| 目的 | サイトを通じて何を達成したいか | 「月に10件の見積もり依頼を獲得する」 |
| 評価指標 | 成功したかどうかを何で判断するか | 「問い合わせフォームの送信数」 |
この3点が書かれたA4の紙が1枚あるだけで、制作中の「なんか違う」は劇的に減ります。デザインを見せられたとき、「この設計で月10件の見積もり依頼につながるか?」と問えるようになるからです。
この3ステップを踏んでから制作会社に相談すると、ヒアリングの密度がまるで変わります。制作会社側も「この会社はやりたいことが明確だ」と感じ、提案の精度が上がります。
制作会社を選ぶとき、「目的への向き合い方」を見る

目的が整理できたら、次は制作会社への相談です。ここでひとつ意識してほしいのが、制作会社の選び方にも「目的」は関係するということ。
ポートフォリオのデザインだけで選ぶと、最初の打ち合わせが「何ページのサイトですか?」「好みのテイストは?」だけで終わることがあります。それ自体が悪いわけではありませんが、目的の設計から一緒に考えてほしい場合は、ヒアリングの初手で「なぜサイトを作るのか」「事業としてどんな課題を感じているか」と掘り下げてくれる会社を選ぶほうが合います。
「作る前に問う」というプロセスを持っているか
制作会社の中には、制作プロセスを「問いを立てる → デザインに落とし込む → 作りきる → 数字で確かめる → 育て続ける」のように段階的に公開しているところがあります。
注目すべきは、最初のステップが「デザインを作る」ではなく「問いを立てる」になっている点です。そもそもこの事業は誰に何を届けているのか。競合と何が違うのか。サイトに期待する役割は何か。そこを問い直さないまま「とりあえずかっこいいデザイン」から入れば、この記事の前半で整理したような行き詰まりが起きやすくなります。
「戦略と制作と運用が分断されると、ブランドは少しずつ薄まっていく」という考え方があります。これは言い換えると、目的を決める段階から公開後の検証まで一貫して見ないと、サイトの価値は時間とともに下がるということです。
制作だけでなく、その前後——つまり「なぜ作るか」と「作った後にどう育てるか」まで含めて相談できるかどうかは、制作会社選びの重要な判断材料になります。
戦略・制作・運用を分断させないことがなぜ大事なのかは、こちらの記事でも掘り下げています。
相談時に聞いてみたい5つの質問
制作会社への初回相談で、次の質問をぶつけてみてください。答えの内容そのものより、どんな姿勢で答えるかを見ます。
| 質問 | 見ているポイント |
|---|---|
| 目的がまだ曖昧なのですが、一緒に整理してもらえますか? | 目的設計を工程に含めているか |
| ヒアリングではどんなことを聞きますか? | 事業理解から入るか、見た目の好みから入るか |
| 公開後のアクセス解析や改善にはどこまで対応できますか? | 制作で終わりか、運用まで見るか |
| 社内で意見が割れたとき、どう進めますか? | 合意形成のサポート経験があるか |
| 途中で目的や方針が変わったら、どう対応しますか? | 柔軟に動けるか、仕様変更に硬直的か |
「目的がまだ固まっていないんです」と正直に伝えることは、まったく恥ずかしいことではありません。その状態を受け止めて一緒に考えてくれる会社のほうが、長い目で見て良いパートナーになります。「とりあえず参考サイトを送ってください」で終わる会社とは、初動の時点で見えている範囲が違います。
制作会社に相談する前に何を準備すべきかは、こちらの記事でまとめています。「発注者が決めなくていいこと」も整理しているので、気負いすぎる前に目を通してみてください。
よくある質問

Webサイトの目的が社内でまとまらないとき、誰が決めるべきですか?
最終的には事業の意思決定者(社長や事業部長)が決める必要があります。ただし、担当者がたたき台を作って提示するほうが話は早く進みます。ステップ2で紹介した「誰に・何を・どうしてほしいか」のテンプレートに当てはめた案を2〜3パターン用意し、「どれが今の優先度に近いですか?」と選んでもらう形がスムーズです。
目的が複数ある場合、1つに絞らないといけませんか?
1つに絞る必要はありませんが、優先順位は必ずつけてください。「問い合わせ獲得と採用、両方大事」で進めると、トップページの構成もメニューの設計も妥協の産物になります。「問い合わせ獲得が最優先、採用は2番目」と決めるだけで、構成や導線の判断がぶれなくなります。
制作会社に相談するとき、目的は完璧に固まっていないとダメですか?
完璧である必要はありません。「こんな課題があって、Webサイトでこう解決したいと思っている」くらいの仮説で十分です。そこから一緒に深掘りしてくれるかどうかが、制作会社の力量を見極めるポイントにもなります。「目的は何ですか?」と聞くだけで終わる会社より、「なぜそう思うんですか?」と掘り下げてくれる会社を選んでください。
小規模なサイトでも目的の整理は必要ですか?
5ページ程度の小さなサイトでも目的の整理は欠かせません。むしろ小規模だからこそ、すべてのページに明確な役割を持たせないと、サイト全体が「何のためにあるかわからないもの」になりがちです。ページ数が少ないぶん整理にかかる時間も短いので、制作の相談に入る前に30分だけでも社内で話し合ってみてください。
制作会社選びで「目的を一緒に考えてくれるか」以外に見るべきポイントはありますか?
ヒアリング力に加えて、公開後の運用まで視野に入れているかどうかを確認してください。作って終わりの会社だと、公開後に「アクセスが伸びないけどどうすれば?」という相談先がなくなります。制作時の目的をそのまま運用フェーズの評価指標として引き継げる体制があるかどうかは、制作後の成果に直結します。
まとめ
Webサイトの目的が決まらないまま制作を進めると、ヒアリングで要件がふくらみ、デザインの修正が終わらず、公開後も効果が測れない——この流れは構造的に起きます。個人の能力や制作会社のスキルの問題ではなく、「判断の基準がない」という設計上の欠陥が原因です。
制作会社に相談する前にやっておきたいことは、突き詰めれば3つだけです。
- 今の課題を書き出す(理想ではなく、現実から始める)
- Webサイトの役割を1文にまとめる(「誰に・何を・どうしてほしいか」で絞る)
- 関係者全員で合意を取る(ターゲット・目的・評価指標の3点だけでいい)
完璧に固める必要はありません。「こういう方向で考えている」という仮説が1つあるだけで、制作会社とのヒアリングの質は変わりますし、その後の工程で判断に迷う場面が格段に減ります。
「課題はなんとなく見えているけど、目的として言語化するのが難しい」と感じたら、目的の設計から付き合ってくれる制作会社に声をかけてみてください。「問いを立てる」ところから始めるプロセスを持つ会社であれば、まだ漠然とした段階からでも、一緒に道筋を見つけてくれます。




