この記事の対象: 自社サイトのリニューアルや新規制作を控えた企業のWeb担当者・経営者
読了時間: 約10分
「会社案内」「事業紹介」「CSR」「IR情報」——。自社サイトのメニューを見返してみてください。その並び順、社内の組織図とほぼ同じではないでしょうか。
社内で使い慣れた分類は、作る側にとっては整理しやすい構成です。しかし初めてサイトを訪れた人にとっては「どこを見れば自分の知りたいことがわかるのか」が見えません。情報設計(IA:Information Architecture)とは、この「訪問者が迷わず目的にたどり着ける構造」を設計する工程です。
この記事では、社内の都合で並べてしまいがちなページ構成を、訪問者の視点から組み直す手順を解説します。特別なツールや専門知識がなくても、社内で取り組める方法に絞っています。
組織図がそのままメニューになる理由

ページ構成は「社内で集めやすい順」に決まりやすい
サイト制作やリニューアルの際、ページ構成はどう決まるでしょうか。多くの場合、各部署に「載せたい情報を出してください」と依頼するところから始まります。集まった素材を部署ごとにまとめると、結果としてメニューが組織図そっくりになります。
これは手抜きではなく、むしろ真面目に進めた結果です。各部署の情報を漏れなく掲載しようとすれば、部署単位で整理するのが最も効率的だからです。ただし、この構成は「情報を出す側」の都合であって、「情報を受け取る側」の都合ではありません。
訪問者は「部署名」で情報を探さない
たとえば製造業のサイトで「技術開発本部」というメニューがあったとします。取引を検討している企業の担当者は、そのページを開くでしょうか。おそらく「どんな技術があるのか」「この課題を解決できるのか」を探しています。「技術開発本部」という名前からは、そこに自分の求める答えがあるかどうかが判断できません。
社内では当たり前に使っている部署名や略称も、訪問者にとっては初見の言葉です。「ソリューション事業部」「CS推進室」と言われて内容がわかるのは社内の人間だけ、ということは珍しくありません。
社内視点の構成
- メニュー名が部署名
- 並び順が組織図と同じ
- 社内略称がそのまま
- 情報を出す側の都合
訪問者視点の構成
- メニュー名が「知りたいこと」
- 並び順が来訪目的の優先度順
- 業界で通じる一般用語
- 情報を探す側の都合
この違いは些細に見えますが、訪問者が「3秒で離脱するか、ページを読み進めるか」を左右します。サイトを公開してもなかなか反応が得られないとき、デザインや文章の前にページ構成そのものが原因になっていることがあります。
ページ構成を訪問者視点で組み直す4つの手順

情報設計を専門のコンサルタントに依頼する方法もありますが、まず社内でできることは多くあります。以下の4ステップで、今のサイト構成を見直してみてください。
順に進めると、現状の構成のどこに「社内都合」が混ざっているかが見えてきます。
手順1:サイトに来る人を分類する
最初にやることは、サイトに誰が来るかを書き出すことです。「ターゲットユーザーの設定」と聞くと難しく感じるかもしれませんが、実際にやることは単純です。
- 御社の商品やサービスを検討している見込み客
- 既存の取引先(発注書や仕様書を探しに来る人)
- 採用候補者(求人情報を見に来る人)
- 株主・投資家
- 報道関係者
BtoB企業であれば、見込み客のなかでも「情報収集段階の担当者」と「比較検討段階の決裁者」では見たいページが違います。ここは粗くて構いません。5〜8種類ほど挙げてみてください。
手順2:訪問者ごとに「知りたいこと」を洗い出す
手順1で挙げた訪問者それぞれについて、「この人はサイトで何を知りたいか」を書き出します。
| 訪問者 | 知りたいこと |
|---|---|
| 見込み客(情報収集段階) | どんなことができる会社か、事例はあるか、規模感はどれくらいか |
| 見込み客(比較検討段階) | 他社との違い、費用の目安、問い合わせ後の流れ |
| 採用候補者 | 働く環境、社風、募集職種、選考の流れ |
| 既存取引先 | 担当者への連絡先、各種書類のダウンロード |
この表をつくると、「採用情報が会社概要の中に1段落だけ」「問い合わせ後の流れがどこにも書かれていない」といった抜け漏れが見つかります。
ポイントは、営業や採用の担当者に「お客様(候補者)からよく聞かれる質問は何ですか?」とヒアリングすることです。実際に寄せられる質問は、サイトに足りていない情報そのものです。
手順3:「知りたいこと」でグループをつくる
手順2で出てきた項目を、部署単位ではなく「知りたいことの種類」でまとめ直します。
たとえば「どんなことができるか」と「事例」は、見込み客が能力を判断するための情報なので同じグループにできます。一方、「社風」と「募集職種」は採用候補者向けの情報として一つにまとまります。
このとき意識したいのは、1つのグループ=1つのメニュー項目、という対応関係です。グループが7つを超えるようなら、さらに上位の分類を考えます。メインメニューの項目数は5〜7が目安です。多すぎるメニューは、どれを選んでも同じに見えてしまい、結局何もクリックされません。
手順4:訪問者の言葉でページ名をつける
最後に、グループの名前を「訪問者が使う言葉」に置き換えます。
| 社内視点のページ名 | 訪問者視点のページ名 |
|---|---|
| ソリューション事業部 | 課題から探す/サービス一覧 |
| 技術開発本部 | 技術・研究開発 |
| CSR推進室 | 社会への取り組み |
| IR情報 | 株主・投資家の方へ |
| 沿革 | 私たちについて(会社概要の一部に統合) |
ページ名を決めるときのチェック基準は一つだけ。「社外の人がこの言葉を見て、中身を想像できるか?」。迷ったら、社外の知人や家族に見せてみてください。「これ何のページ?」と聞かれたら、その名前は訪問者に伝わっていません。
サイトの目的が定まっていないと、ページ構成の判断基準もぶれやすくなります。目的の整理から始めたいときは、下記の記事が参考になります。
情報設計で「社内の都合」が出やすい3つの場面

手順を知っていても、実際に進めると社内の力学で構成がゆがむことがあります。制作の現場でよく見かけるパターンを3つ挙げます。
メニューの並び順が「声の大きい部署」順になる
「うちの部署の情報をもっと目立つ位置に」という要望は、サイトリニューアルのたびに出てきます。各部署の言い分をそのまま聞いていると、メニューの並び順は社内の政治力で決まってしまいます。
並び順の判断基準は、訪問者の来訪目的の優先度です。アクセス解析がすでにあるなら、どのページが最もよく見られているかを確認してください。解析がなくても、「サイトに来る人の大半は何を目的にしているか」を考えれば、自然と優先度は見えてきます。
重要な情報がトップページから遠すぎる
問い合わせフォームや料金ページが、メニューの階層を3回たどらないと出てこない——。こうしたサイトは少なくありません。「まず会社概要を見て、次に事業内容を見て、それから……」という社内の期待する閲覧順序は、訪問者の行動とはまず一致しません。
訪問者が最も求めている情報は、どのページからでも2クリック以内でたどり着ける位置に置くのが基本です。「見てほしい順」ではなく「探される順」で配置を考えてください。
1ページに複数の目的を押し込んでいる
「このページに採用情報も入れておいて」「ついでにニュースも載せたい」。ページ数を増やしたくないという理由で、1つのページに異なる目的の情報が同居することがあります。
見込み客向けの事業紹介ページに採用バナーが大きく出ていたら、見込み客はどう感じるでしょうか。「自分向けのページではないのかも」と離脱するリスクがあります。ページごとに「このページは誰のために存在するか」を一つに絞ることが、情報設計の鉄則です。
「問いを立てる」から始めると構成がぶれにくい

ここまで読んで「手順はわかったが、実際にやると社内の調整が大変そうだ」と感じた方も多いかもしれません。情報設計が難しいのは、技術的な問題ではなく「何を基準に判断するか」が定まっていないことに原因があります。
いきなりページ構成の話に入る前に、「このサイトは、誰の、どんな問題を解決するためにあるのか」を問い直す工程を挟むと、判断に迷ったときの拠り所ができます。
この「問い」を省いてページ構成を決めると、あとから「やっぱりこの情報も必要だった」「メニュー構成を変えたい」という手戻りが起きやすくなります。逆に問いに答えが出ていれば、社内の誰かが「うちの部署のページをもっと上に」と言ったときにも、「サイトの目的に照らすとこの優先度が適切です」と根拠を持って判断できます。
「問いの立て方」の具体例
実際にどんな問いを立てればいいのか、例を挙げます。
- 「サイトに来てほしいのは誰か?」 ——見込み客・採用候補者・既存顧客のうち、最も優先度が高いのはどの層か。全員を同じ優先度にすると、結局どの層にも刺さらない構成になる。
- 「訪問者に最終的にどうしてほしいのか?」 ——問い合わせ・資料請求・採用応募など、サイトのゴールが複数ある場合はメインのゴールを一つ決める。ゴールが決まれば、そこに至る導線から逆算してページ構成を組める。
- 「競合サイトと比べたとき、訪問者がうちを選ぶ理由は何か?」 ——この答えがサイト上で伝わっていなければ、ページは揃っていても機能していない。
こうした問いに社内で答えを出しておくと、制作会社に依頼する場合でも「こういう方針でお願いしたい」と明確に伝えられます。
もう一つ重要なのは、情報設計は一度やって終わりではないということです。ページを追加するたびに「とりあえずここに入れておこう」が積み重なると、最初にどれだけ整理しても構成は崩れていきます。戦略と制作と運用を一貫した方針でつなげることが、サイトを長く機能させる条件です。
サイト公開後の運用について詳しく知りたい方は、下記の記事もあわせてご覧ください。
制作会社に依頼するときの確認ポイント

情報設計を制作会社に依頼する場合、見積もりの中に「情報設計」や「サイト構造設計」の工程が含まれているかを確認してください。
含まれていない場合、ワイヤーフレーム(画面の骨組み)作成の段階でいきなりページ構成が提示され、「なぜこの構成なのか」の根拠がないまま進むリスクがあります。
制作会社とのやりとりで確認しておきたいポイントをまとめます。
| 確認事項 | なぜ確認が必要か |
|---|---|
| 情報設計の工程は見積もりに含まれているか | 含まれないと「見た目だけ作る」になりやすい |
| ターゲットユーザーの整理をどう進めるか | 制作側の想像だけで決まっていないか確認する |
| メニュー構成の根拠をどう説明してもらえるか | 「慣例でこうなります」では判断できない |
| 公開後にページ追加する際のルールはあるか | ルールがないと構成が徐々に崩れる |
この確認をするだけでも、制作会社が情報設計をどの程度重視しているかがわかります。ヒアリングで制作会社が何を聞いてくるかを事前に知っておくと、打ち合わせがスムーズに進みます。
見積書の読み方そのものに不安がある場合は、費用の内訳を解説した記事も参考にしてください。
よくある質問

情報設計はリニューアルのときだけやればいいですか?
リニューアル時に集中的に取り組むのが一般的ですが、ページを追加・削除するたびに全体構成を確認する習慣があると、構成の崩れを防げます。年に一度、メニュー構成を見直す機会を設けている企業もあります。
小規模なサイト(5〜10ページ程度)でも情報設計は必要ですか?
ページ数が少ないからこそ、1ページごとの役割がはっきり決まっている必要があります。5ページしかないのに似た内容のページが2つある、といった無駄は小規模サイトほど目立ちます。手順2の「知りたいことの洗い出し」だけでも実施すると、構成の精度が上がります。
メニュー構成を変えるとSEOに悪影響はありませんか?
URLの変更を伴う場合はリダイレクト設定が必要ですが、構成の改善自体がSEOに悪影響を与えることは基本的にありません。訪問者にとってわかりやすい構成は、検索エンジンにとっても理解しやすい構造です。URLを変更する際は、旧URLから新URLへの301リダイレクトを忘れずに設定してください。
社内で意見が割れたときはどう決めればいいですか?
「訪問者はどちらのほうが迷わないか」を唯一の判断基準にすると、社内の議論が個人の好みや部署の利害から離れやすくなります。可能であれば、社外の人に2案を見せて「どちらがわかりやすいか」を聞く簡易テストが有効です。社内でのデザインの決め方については、Webサイトのデザインの決め方|社内で意見が割れない判断基準で詳しく解説しています。
情報設計と「ワイヤーフレーム」は何が違いますか?
情報設計はサイト全体の構造——どんなページが必要で、それをどう分類し、どんな順序で並べるか——を決める工程です。ワイヤーフレームは、その構造をもとに1ページ内のレイアウト(どの要素をどこに置くか)を設計する工程です。情報設計が「建物全体の間取り」なら、ワイヤーフレームは「各部屋の家具配置」にあたります。情報設計が固まっていない状態でワイヤーフレームを作り始めると、ページの役割があいまいなまま見た目だけが決まり、あとから大きな手戻りが発生しやすくなります。
まとめ
ページ構成は、サイトの「骨格」です。デザインや文章がどれだけ優れていても、骨格が訪問者の行動と合っていなければ、情報は届きません。
組み直しの手順は、この4つです。
- サイトに来る人を分類する
- 訪問者ごとに「知りたいこと」を書き出す
- 部署単位ではなく「知りたいこと」でグループをつくる
- メニュー名を訪問者の言葉に置き換える
社内の都合が入り込みやすいポイント——メニューの並び順、階層の深さ、1ページに詰め込む情報量——を意識するだけでも、訪問者にとってのわかりやすさは変わります。
構成を考える前に「このサイトは誰の何を解決するのか」という問いに立ち戻ること。そこが定まっていれば、社内で意見が割れたときにも、訪問者の視点で判断を下せます。




