この記事の対象: Shopifyからの移行・解約・一時停止を検討している事業者、ストア運営の担当者
読了時間: 約12分
Shopifyをやめる判断は、始めるときよりずっと情報が少ない状態で下すことになります。管理画面の解約ボタンは数クリックで押せてしまうのに、「押したあと何が残って何が削除されるのか」は、どこにもまとまった形で書かれていません。
結論から言うと、解約前に自分の手で書き出しておかなかったデータは、あとから取り戻せないと考えたほうが安全です。顧客リスト、注文履歴、商品データ、レビュー、ブログ記事、リダイレクト設定——どれも移行先で必要になるのに、どれも「退会したあとで取りに行く」ことを前提にできません。
この記事では、ECサイトを作る側として移行案件に関わってきた経験から、解約前にやっておく作業を実務の順番で整理します。加えて、意外と知られていない「一時停止」という選択肢と、ドメインの扱いという後戻りできない論点も扱います。
なお、Shopify側の仕様は変わります。この記事は判断の枠組みを示すもので、実際の保持期間やプラン名、料金は必ず最新の公式ヘルプで確認してください。
解約を考える前に|やめる理由を1行で言えるか
移行の相談で最初に聞くのは、「なぜやめたいのか」です。ここが曖昧なまま乗り換えると、移行先で同じ不満を抱えることになります。
よくある「やめたい理由」と、その実際の原因
| やめたい理由 | 実際の原因であることが多いもの | 移行以外の解決策 |
|---|---|---|
| 月額が高い | プラン本体ではなくアプリの積み上がり | 使っていないアプリの棚卸し |
| 表示が遅い | アプリが読み込むスクリプトの重複 | 不要なアプリの削除・実装の見直し |
| やりたいことができない | アプリで解決しようとしている | テーマ側の改修で対応できる場合がある |
| 売れない | 集客導線の問題 | カート側を変えても解決しない |
| 手数料が重い | 決済手段の構成 | 決済まわりの設定見直し |
月額の不満で解約を検討している場合、内訳を一度分解してみる価値があります。プラン本体よりアプリの合計のほうが大きくなっているケースは珍しくありません。
表示速度が理由の場合も同様です。プラットフォームそのものが遅いのか、入れているアプリが遅くしているのかで打ち手が変わります。移行してもアプリで同じ機能を再現すれば、同じ重さが再現されるだけです。
一方で、次のようなケースは移行の判断が妥当です。
- 業態そのものが合っていない(受注生産・BtoB特化の複雑な見積フローなど)
- 実店舗側の基幹システムと連携する必要があり、その要件が満たせない
- 事業を縮小・終了するので、そもそもECを続けない
- 販売をやめて情報発信サイトだけ残したい
「合わないから移る」のは正しい判断です。「不満の原因を特定せずに移る」のが危ういという話です。
Shopifyを解約すると何が削除されるか|データの扱いを先に把握する
ここが本題です。解約後のデータの扱いは、大まかに3つに分かれます。
自分で控えれば残る
- 顧客・注文・商品のCSV
- テーマファイル一式
- ブログ記事の本文と画像
- ページのURL一覧
控えられない/削除される
- アプリ内に溜めたデータ
- 公開URL・リダイレクト設定
- 顧客のログイン情報
- 管理画面でしか見られない集計
左側は自分の手で動かせば守れるもの、右側は解約と同時に手が届かなくなるものです。右側を先に確認してから、左側の作業に入るのが正しい順序になります。
退会後に管理画面へ入れる保証はない
もっとも重要な前提です。解約したストアの管理画面は、いつまでも開けるわけではありません。一定期間を過ぎると入れなくなり、そこから先はCSVを落とすことも、テーマをダウンロードすることもできません。
期間は仕様変更の対象なので、この記事では具体的な日数を書きません。「解約した瞬間に取り出せなくなる」と想定して準備するのが、唯一安全な立て方です。移行案件で実際によく起きるのは「解約してから必要なデータに気づく」パターンです。
なお、管理画面に入れる/入れないとは別に、Shopify側がデータをどれくらい保持するかという論点もあります。ここも公式の規定に従うほかなく、こちら側でコントロールできません。自分の手元にコピーがある状態を作ることだけが、確実な対策です。
アプリが持っているデータは、Shopifyのエクスポートに含まれない
ここを見落とす方が非常に多いところです。Shopifyの標準エクスポート(顧客・注文・商品)に含まれるのは、Shopify本体が管理しているデータだけです。アプリが独自のデータベースに溜めているものは含まれません。
たとえば以下のようなものです。
- レビューアプリに溜まった商品レビューと星評価
- ポイント・会員ランクアプリの保有ポイントや会員区分
- 定期購入アプリの契約情報と次回配送予定
- ウィッシュリストアプリの保存データ
- メール配信アプリの配信履歴・開封率・セグメント
- 独自のフォームアプリで受け取った問い合わせ内容
- 商品検索・絞り込みアプリが作った独自のタグやフィルタ設定
- 翻訳アプリが保持している多言語テキスト
これらはそれぞれのアプリ側でエクスポート操作が必要です。アプリによってはエクスポート機能自体がない場合もあります。アプリのアンインストール時点で、そのアプリが持つデータは削除される設計のものが多いことも押さえておいてください。
レビューは特に痛手になりやすい資産です。何年もかけて集めた口コミが、移行で丸ごと消えるのは避けたいところです。
多言語で運用しているストアも同じ構図です。翻訳をアプリに預けている場合、日本語以外のテキストがアプリ側にしか存在しないことがあります。商品CSVを書き出しても日本語しか入ってこない、という事態が起きるので、移行前にどの言語のデータがどこにあるかを確認してください。
自前で実装している機能は移せることがある
これは作る側から見ると、けっこう大きな差です。アプリに預けているデータは移行時にアプリの都合に縛られますが、テーマ側に自前で実装している機能は、データの持ち方を自分で決めているので状況が読めます。
たとえばウィッシュリストをブラウザのローカルストレージで持たせている場合、データはそもそも訪問者の端末にあります。この構造だと「アプリを解約したらデータが削除される」という事故は起きません(同時に、端末をまたいだ同期はできませんが)。
同じことがメタフィールドにも言えます。商品の追加情報をアプリの独自データベースではなくShopifyのメタフィールドに持たせていれば、それは商品データの一部として管理画面から確認でき、APIでも取得できます。どこにデータを置くかという設計判断が、そのまま「抜けるときのコスト」に直結します。
自社でもDawnテーマをベースにカスタマイズしたストアを運用していますが、どの機能をアプリに任せてどれを自前で持つかは、こうした「抜けるときにどうなるか」も含めて決めています。入れる段階では見えにくい論点ですが、数年運用すると効いてきます。
控えるものリスト|解約前にやる作業の順番
ここからは実務です。上から順に進めれば抜けが出にくい形にしています。
1と2を飛ばして4から始める人が多いのですが、棚卸しを先にやらないと「何を控えるべきか」のリストが作れません。
ステップ1|棚卸し:何が動いているかを一覧にする
紙でもスプレッドシートでも構いません。次の4つを書き出します。
入っているアプリの一覧
管理画面のアプリ一覧をそのまま写します。それぞれについて「データを持っているか」「エクスポート機能があるか」「移行先で何に置き換えるか」の3列を足します。使っていないのに課金だけ続いているアプリが見つかることも多く、この作業自体が月額の見直しになります。
公開しているページのURL一覧
商品ページ、コレクションページ、固定ページ、ブログ記事のURLを全部拾います。サイトマップ(/sitemap.xml)を開けば一覧が取れます。これが後述のリダイレクト設計の元になります。あわせてSearch Consoleの検索パフォーマンスから、実際に検索流入があるページを表示回数の多い順に書き出しておくと、後でリダイレクトの優先順位を決めるときにそのまま使えます。
外部から呼ばれている設定
Google広告・Meta広告の連携、Googleマーチャントセンター、SNSのショップ連携、外部の在庫管理や受注管理システム。どこか一箇所でも切り忘れると、移行後に「注文が来ない」「商品が承認されない」といった事故になります。
管理画面を触っている人の一覧
スタッフアカウントを誰が持っているか。移行後に同じ人が同じ作業をするなら、権限設計をそのまま持ち越せるか確認します。退職者のアカウントが残っている場合は、この機会に整理します。
ステップ2|標準データ:CSVで書き出す3点セット
Shopifyの管理画面から書き出せる基本データです。それぞれ注意点があります。
| データ | 書き出し場所 | 注意点 |
|---|---|---|
| 顧客 | 顧客一覧のエクスポート | メール配信の同意状況の列を必ず含める |
| 注文 | 注文一覧のエクスポート | 期間指定があるので全期間を選ぶ。行が商品単位で分かれる |
| 商品 | 商品一覧のエクスポート | 画像はURLのみ。画像ファイル自体は別途取得が必要 |
顧客データで最重要なのは、メール配信の同意状況です。 この列を落として移行すると、移行先で「同意を取り直すか、配信をやめるか」の二択になります。せっかく作ったリストを使えなくする、地味に致命的なミスです。
注文データは、書き出したCSVの行の意味を確認してください。 注文単位ではなく注文明細単位で行が作られるため、1注文に3商品あれば3行になります。集計に使う場合は集計方法を変える必要があります。
商品データで落としやすいのが画像です。 CSVに入るのは画像のURLであって、画像ファイルそのものではありません。ストアを解約すればそのURLは死ぬので、画像は別途まとめて取得しておく必要があります。CSVのURL列を使ってダウンロードするのが現実的です。
この3点セット以外にも、管理画面から個別に書き出せるもの、あるいは書き出しの経路を考えておくべきものがあります。
- ディスカウントコード:発行中のコードと条件。移行先で同じコードを再発行するなら一覧が要ります
- 配送設定:地域ごとの送料テーブル。画面のスクリーンショットでも構わないので記録を残します
- ギフトカード:残高のある未使用ギフトカードがあれば、移行先での扱いを先に決めておきます
- メタフィールドとメタオブジェクト:商品CSVの標準列には出ないものがあります。使っているなら書き出し方法を確認してください
ギフトカードは特に扱いが難しい項目です。残高が残っているのに使える場所がなくなると、顧客とのトラブルに直結します。残高のあるギフトカードが1枚でもあるなら、有効期限と移行先での代替手段を解約前に決めてください。
ステップ3|アプリ側:一つずつ確認する
ステップ1で作ったアプリ一覧を使って、1つずつエクスポート可否を確認します。ここは自動化できません。
確認のポイントは3つです。
- エクスポート機能があるか(設定画面か、サポートへの依頼か)
- 出力形式は何か(CSV/JSON/そのアプリ専用形式)
- 移行先で読み込める形か(専用形式だとほぼ使えません)
レビューアプリの場合、移行先の同じカテゴリのアプリがインポートに対応していることがあります。ただし対応する形式が限られるので、移行先のアプリを先に決めてから、そのアプリが受け付ける形式でエクスポートするのが手順として正しい順序です。逆をやると、出したデータが使えないことに後から気づきます。
サポートに依頼しないとエクスポートできないアプリもあります。返答に数日かかることもあるので、解約日から逆算して余裕を持って動いてください。海外のアプリベンダーだと時差の分だけ往復が遅くなるので、そこも見込んでおきます。
もうひとつ注意したいのがアプリの解約手続きそのものです。Shopify経由の課金であればストアの解約と同時に止まりますが、アプリによってはベンダー側と直接契約している場合があります。ストアを閉じても課金が残らないか、アプリ一覧を作る段階で確認しておいてください。
ステップ4|制作物:テーマと記事と画像
テーマファイルは管理画面からZIPでダウンロードできます。移行先がShopifyでないなら直接は使えませんが、デザインの参照元として、また「何をどう実装していたか」の記録として残す価値があります。カスタマイズを入れているストアなら、これは制作費をかけた資産そのものです。
なお、ダウンロードできるのは公開中のテーマだけではありません。過去に使っていた非公開テーマも、必要なら同じ手順で落としておきます。 「前のデザインのこの部分だけ戻したい」という要望は移行後にわりと出てきます。
ブログ記事は見落とされがちです。標準のエクスポート機能では扱いが限られるため、記事数が多い場合は工夫が要ります。記事本文はHTMLとして持っているので、管理画面から1本ずつコピーするか、APIで取得するかのどちらかになります。検索流入のある記事があるなら、URLと本文の対応を残しておかないと移行先で再現できません。
記事を控えるときは、本文だけでなくタイトル・公開日・タグ・アイキャッチ画像のURL・記事URLのスラッグまでセットで記録してください。本文だけ残しても、公開日とURLが失われると移行先で同じ記事として扱えません。
画像は商品画像だけでなく、バナー、ロゴ、ブログのアイキャッチ、テーマの背景画像まで含めて考えます。元データ(入稿用の高解像度ファイル)が手元にあるかを確認してください。制作会社に作ってもらったものなら、元データの所在を先に確認しておきます。
ファイル管理画面にアップロードしてテーマやページから参照している画像・PDF・フォントも同じ扱いです。商品にもブログにも紐付いていないファイルは、書き出しリストから漏れやすいので、ファイル一覧を別途確認してください。
ステップ5|外部連携:切り離しの順序
これは解約の直前に行う作業です。順序を間違えると、稼働中のストアが止まります。
- 広告の配信を止める(移行先が立ち上がるまで)
- 外部サービス連携を解除する(在庫管理、受注管理、会計)
- 決済の設定を確認する(未処理の返金・チャージバックがないか)
- ドメインを移す(次の章で詳述)
- 最後に解約
決済まわりは特に慎重に。 解約後に返金処理が必要になる注文が残っていると、対応手段がなくなります。返品期間が過ぎるまで待ってから解約するのが安全です。定期購入を運用しているストアなら、次回の課金日と顧客への案内も含めて設計してください。黙って止めると問い合わせが集中します。
計測まわりも忘れずに。GA4やGoogleタグマネージャーは移行先に設置し直す必要があります。過去のデータはGA4側に残るので慌てなくて大丈夫ですが、計測が止まった期間があると前年比較が崩れます。 移行先の公開と同時に計測が動く状態を作ってください。
ドメインの扱い|ここだけは後戻りできない

解約で一番リスクが高いのがドメインです。ここは分岐が複雑なので、整理します。
3つのパターンで扱いが変わる
| ドメインの持ち方 | 解約時の扱い | やること |
|---|---|---|
| Shopifyで購入した | Shopifyが管理元。移管が必要 | 解約前に他社へ移管する |
| 外部で取得して接続した | 所有権は自分側。接続を外すだけ | DNS設定を移行先に向け直す |
Shopify標準のURL(.myshopify.com) |
解約とともに使えなくなる | 移せない。リダイレクトも残せない |
Shopifyでドメインを購入している場合が要注意です。 ストアを解約する前に、他のレジストラへ移管する手続きを済ませておく必要があります。移管には手続き期間がかかり、さらにドメインには「取得・移管から一定期間は再移管できない」というルールがあります。解約日の直前に着手すると間に合いません。
外部で取得している場合は比較的シンプルです。 ドメインの所有権は最初から自分側にあるので、DNSのレコードを移行先のサーバーやサービスに向け直すだけです。ただし、メールを同じドメインで運用している場合、MXレコードを触らないよう注意してください。Web側のレコードだけを変更します。
ドメインの名義がそもそも誰になっているか分からない、というケースもよくあります。制作を依頼した会社の名義で取得されていると、移管に相手の協力が要ります。
リダイレクトは解約と同時に消える
Shopifyの管理画面で設定したURLリダイレクトは、ストアが止まれば機能しません。移行後のリダイレクトは、移行先のサーバーやサービス側で設定し直すことになります。
だからこそステップ1で「公開しているページのURL一覧」を作っておく必要があります。旧URLと新URLの対応表を作り、移行先で301リダイレクトを設定する——この作業をやるかやらないかで、移行後の検索流入は大きく変わります。
URL構造が変わる移行(たとえばShopifyの/products/から別の構造へ)では、対応表が数百行になることもあります。検索流入のある上位ページだけでも対応表を作っておくのが、最低限の妥協ラインです。ステップ1でSearch Consoleの表示回数を控えておけば、この優先順位付けがそのままできます。
外部サイトからリンクされているページにも注意してください。メディア掲載やSNSの投稿から張られたリンクは、こちらの都合で書き換えてもらえません。被リンクのあるページこそリダイレクトの価値が高いので、対応表に入れておきます。
「一時停止」という選択肢|解約する前に検討する
意外と知られていないのですが、Shopifyにはストアを一時停止する仕組みがあります。解約とは別の扱いで、ストアのデータを保持したまま販売を止められます。
一時停止が向いているケース
一時停止が向く
- 季節商材でオフシーズンがある
- 移行先の構築に数ヶ月かかる
- 事業の再開見込みがある
- データを残したまま迷いたい
解約が妥当
- 移行が完了して稼働している
- 事業を完全に終了する
- 再開の予定が明確にない
移行先の構築に時間がかかる場合、一時停止を挟むと安全側に倒せます。旧ストアを残したまま新ストアを作り、切り替えが済んでから旧ストアを解約する——この順序なら、データを取りこぼす確率がぐっと下がります。
一時停止中も費用は発生しますが、通常のプランより抑えた金額で維持できる仕組みがあります。具体的な金額とプランの条件は変わるため、Shopifyの公式ヘルプで最新の情報を確認してください。
一時停止中の挙動で確認しておくべき点:
- 管理画面には入れるか(データを見られるか)
- ストアフロントは公開されるか、非公開になるか
- アプリの課金は続くか、止まるか
- 再開の手続きに何が必要か
特にアプリの課金は要確認です。Shopify本体の課金が下がっても、アプリ側の課金が別枠で続くなら、期待した節約になりません。一時停止を選ぶなら、その前に不要なアプリを整理しておくのが筋です。
もうひとつ、一時停止中のSEOへの影響も見ておいてください。ストアフロントが非公開になる期間が長いと、検索エンジンのインデックスから外れていきます。数ヶ月単位で止めるなら、再開後に検索流入が戻るまで時間がかかる前提で計画を立ててください。 短期の移行期間なら大きな問題になりませんが、「とりあえず止めて1年放置」は避けたほうがいい選択です。
そもそもECをやめるだけなら、サイトは残せる

移行の相談で、実はこのパターンがかなりあります。「ECの売上が立たないのでやめたい。でもサイトは残したい」というケースです。
この場合、Shopifyを丸ごと解約する必要はありません。商品の販売機能だけ止めて、情報発信サイトとして残すという選択肢があります。
販売をやめてサイトだけ残す構成
Shopifyはコーポレートサイトとしても使えます。固定ページ、ブログ、問い合わせフォーム——一般的なコーポレートサイトに必要な要素は揃っています。商品を非公開にし、カートまわりの導線をテーマ側で外せば、EC機能のないサイトとして運用できます。
この考え方を詳しく整理した記事があります。
この構成のメリットは、将来ECを再開したくなったときに、データがそのまま残っていることです。顧客リストも商品データも過去の注文履歴も、管理画面の中にあります。商品を再公開すれば翌日から売れます。
一方でデメリットは、コーポレートサイトとして使うには月額が割高に感じられる可能性がある点です。ここは「再開する可能性がどれくらいあるか」で判断が分かれます。
実務上の注意として、商品を非公開にするだけだと商品ページのURLが404になります。検索流入のある商品ページがあるなら、関連する固定ページやブログ記事へリダイレクトを設定してください。この作業は解約と違っていつでもやり直せるので、まず残す判断をしてから整えれば十分です。
判断の目安としては、こうなります。
| 状況 | 判断 |
|---|---|
| 1〜2年以内に再開の可能性がある | サイトとして残す、または一時停止 |
| 再開の予定はないが商品データは惜しい | データを控えてから解約 |
| 事業自体を終了する | 控えるべきものを控えて解約 |
移行先を決めるときの判断軸
解約の話から少し先の話になりますが、移行先の選定は解約前に済ませておく必要があります。理由は単純で、移行先が決まらないとエクスポート形式が決められないからです。
移行先の候補と、それぞれで発生する作業
| 移行先 | データ移行の難易度 | 主な追加作業 |
|---|---|---|
| 別のASP型EC | 中 | CSVの列マッピング、レビューの再取得 |
| WordPress + EC プラグイン | 高 | サーバー調達、決済の再契約、保守体制 |
| ECをやめてコーポレートサイトのみ | 低 | 商品ページの扱い(削除かリダイレクトか) |
| 自社開発 | 最高 | 全部 |
ASP型から別のASP型への移行が、もっとも作業が読めます。 CSVの列名が違うだけなので、マッピング表を作れば機械的に処理できます。ただし、Shopifyのバリエーション(サイズ×カラーのような組み合わせ)の持ち方は移行先と一致しないことが多く、ここだけは手作業が残ると考えてください。
WordPressへの移行は、見た目の自由度が上がる代わりに運用の責任が全部自分側に来ます。 サーバーの契約、SSL証明書、プラグインの更新、セキュリティ対策、バックアップ。Shopifyが引き受けていた部分が可視化されます。月額は下がっても、保守の手間と費用が乗ってくることは計算に入れてください。
移行にかかる費用は、移行先の種類よりもデータ量・機能数・独自実装の有無で決まります。商品数が少なく標準機能だけで組まれたストアなら作業は読めますが、アプリで独自の機能を足している、あるいは基幹システムと連携している場合は、その分の設計と実装が乗ります。見積を取るときは、この記事のステップ1で作った棚卸し表をそのまま渡すのが早いです。何を移すのかが分かっていない状態では、どの会社も正確な金額を出せません。
移行そのものにかかる期間
移行案件で見ていると、規模にかかわらず以下の工程は必ず発生します。
準備
- 棚卸し
- 移行先の選定
- データ書き出し
構築
- デザイン・実装
- データ投入
- 決済の契約と設定
切り替え
- ドメイン切替
- リダイレクト設定
- 計測タグの再設置
後処理
- 旧ストア解約
- 検索順位の監視
決済の契約審査は自分では短縮できない工程です。ここが数週間かかることを前提に、逆算してスケジュールを組んでください。
そして「旧ストア解約」が最後の工程にあることに注目してください。検索順位の監視まで含めて、新ストアが問題なく回っていることを確認してから解約するのが正しい順序です。リダイレクトの設定漏れは公開直後には気づきにくく、旧ストアが生きていれば設定を見直せます。解約を急ぐ理由は、たいていの場合ありません。
解約前チェックリスト

最後に、実務で使える形にまとめます。上から順に潰してください。
データの控え
- [ ] 顧客CSV(メール配信同意の列を含む)
- [ ] 注文CSV(全期間)
- [ ] 商品CSV
- [ ] 商品画像ファイル(URLではなく実体)
- [ ] テーマファイル(ZIP・非公開テーマを含む)
- [ ] ブログ記事の本文・タイトル・公開日・スラッグ
- [ ] 各アプリのデータ(レビュー、ポイント、定期購入など)
- [ ] 公開URLの一覧(サイトマップから取得)
- [ ] ディスカウントコード・配送設定・ギフトカード残高
- [ ] ファイル管理画面のファイル(PDF・フォントなど)
外部との切り離し
- [ ] 広告配信の停止
- [ ] 外部システム連携の解除
- [ ] SNSショップ連携の解除
- [ ] 計測タグ(GA4など)の移行先への設置準備
- [ ] 未処理の返金・チャージバックの完了
- [ ] 定期購入の顧客への案内
- [ ] アプリのベンダー直契約がないかの確認
ドメイン
- [ ] 取得元の確認(Shopifyか、外部か)
- [ ] 名義の確認
- [ ] Shopify購入なら移管手続き(期間に余裕を持つ)
- [ ] DNSの向け先変更(MXレコードは触らない)
解約の実行
- [ ] 一時停止で足りないか最終確認
- [ ] 移行先が稼働していることを確認
- [ ] リダイレクトが効いていることを確認
- [ ] すべて済んでから解約
このチェックリストの中で取り返しがつかないのは「データの控え」と「ドメイン」の2ブロックです。他は後からでもリカバリーできます。この2つだけは、解約ボタンを押す前に必ず完了させてください。
よくある質問
Shopifyを解約したら、顧客データや注文履歴は削除されますか
管理画面にアクセスできなくなる時点で、実質的に取り出せなくなります。解約前にCSVでエクスポートしていない限り、あとから取得する手段はないと考えてください。特に顧客データはメール配信の同意状況を含めて書き出しておかないと、移行先でリストが使えなくなります。Shopify側の保持期間は公式の規定によるため、自分の手元にコピーを作ることだけが確実な対策です。
一時停止と退会(解約)は何が違いますか
一時停止はストアのデータを保持したまま販売を止める仕組みで、再開が可能です。解約はストアそのものを閉じる手続きで、データへのアクセス手段が失われます。移行先の構築に時間がかかる場合や、再開の可能性がある場合は、一時停止を挟むほうが安全です。費用とプランの条件は変わるので、Shopifyの公式ヘルプで最新の情報を確認してください。
Shopifyで購入したドメインは解約後も使えますか
そのままでは使えません。解約する前に他のレジストラへ移管する手続きが必要です。移管には手続き期間がかかり、ドメインの種類によっては再移管が一定期間できない制限もあります。解約日の直前ではなく、余裕を持って着手してください。
アプリに溜まったレビューやポイントも一緒に移せますか
Shopifyの標準エクスポートには含まれません。各アプリの管理画面から個別にエクスポートする必要があり、そもそもエクスポート機能がないアプリもあります。移行先のアプリを先に決めて、そのアプリが受け付ける形式で出すのが正しい順序です。アプリをアンインストールした時点でデータが削除される設計のものが多いので、削除は最後にしてください。
解約するとストアのURLはどうなりますか
.myshopify.comのURLは使えなくなり、リダイレクトを残すこともできません。独自ドメインで運用していた場合は、DNSの向け先を移行先に変更すればURLそのものは維持できますが、各ページのパスは移行先の構造に合わせて301リダイレクトを設定する必要があります。旧URLの一覧を解約前にサイトマップから取得しておいてください。
ECはやめたいけれどサイトは残したい場合はどうすればいいですか
商品を非公開にして、固定ページとブログを中心としたサイトとして運用を続ける選択肢があります。この構成なら顧客データも商品データも残るため、将来ECを再開するときに作り直しが不要です。月額と再開見込みを天秤にかけて判断してください。商品ページが404になるので、検索流入のあるページはリダイレクトを設定します。
まとめ
Shopifyの解約で失うものは、思っているより多く、そして静かに削除されます。押さえておくべき要点は4つです。
- 解約した瞬間にデータへ手が届かなくなると想定して準備する。 「あとで取りに行ける」を前提にしない
- アプリが持つデータは標準エクスポートに含まれない。 レビュー、ポイント、定期購入は個別に対応する
- ドメインは取り返しがつかない。 Shopifyで購入したものは、解約前の移管が必須
- 一時停止という選択肢がある。 移行期間の保険として、また迷っている間の置き場として使える
そして、やめる理由が「月額」や「速度」なら、移行の前に原因の切り分けをおすすめします。アプリの構成を見直すだけで解決する不満は、実際かなり多いです。
移行は、やると決めれば粛々と進む作業です。難しいのは判断のほうで、そこには「今のストアで何が起きているのか」を正確に把握する作業が要ります。自分のストアがどちらのケースなのか判断しきれない場合は、一度棚卸しだけでも第三者の目を入れると見え方が変わります。








