リニューアルガイド

なぜWebサイト制作は事業整理から始まるのか|最初に問うべきこと

この記事の対象: 自社サイトの新規制作・リニューアルを検討中の企業担当者
読了時間: 約10分

「新しいサイトを作りたい」「そろそろリニューアルの時期だ」。制作会社に相談すると、いきなりデザインやページ構成の話が始まる——と思っている方は多いのではないでしょうか。

ところが実際の打ち合わせでは、開口一番こう聞かれることがあります。

「御社の事業について教えてください」

デザインの話でも、サイトの仕様の話でもなく、事業そのものの話。面食らった経験がある方もいるかもしれません。

この記事では、Webサイト制作がなぜ「事業の整理」から始まるのか、その理由と、発注前に自分でできる準備について解説します。これから制作会社に声をかけようとしている方は、準備のチェックリストとしても使えるはずです。


「どんなサイトにしたいですか?」では始められない理由

「どんなサイトにしたいですか?」では始められない理由

制作会社に相談するとき、事前に用意しているのは「こういう雰囲気にしたい」「競合のあのサイトがかっこいい」といった、見た目のイメージであることが多いです。

これ自体は有用な情報ですが、制作のスタート地点としては足りません。

Webサイトは「事業の課題を解決する道具」です。道具を作る前に、何を解決したいのかがはっきりしていなければ、見た目がどれだけ整っていても成果にはつながりません。

たとえば、次のようなケースを想像してみてください。

状況 見た目重視で進めた結果
問い合わせを増やしたいのに、目的が共有されていない デザインは美しいが、導線が弱く問い合わせ数が変わらない
採用を強化したいのに、求職者目線が抜けている 会社紹介は充実したが、採用ページは既存の使い回しのまま
ECへの導線を作りたいのに、商品の強みが言語化されていない カタログ的な一覧は並んだが、「なぜこれを買うべきか」が伝わらない

どのケースも、事業の課題と目的を整理していれば防げた問題です。制作会社が「事業について教えてください」と聞くのは、この整理をしないとサイトの設計ができないからにほかなりません。


事業整理で確かめる3つのこと

事業整理で確かめる3つのこと

「事業を整理する」と言っても、経営計画を一から書き直すような大げさな話ではありません。制作前に確かめるべきことは、大きく3つに絞られます。

何を売っているのか——商品・サービスの「本当の価値」

「何を売っているか」は、自社のことだから当然わかっている。そう感じるかもしれません。しかし制作の現場で意外と多いのが、社内でも商品・サービスの説明がバラバラというケースです。

営業担当が口頭で話している強みと、パンフレットに書いてある特徴と、既存サイトに載っている説明文。この3つが微妙にずれている会社は珍しくありません。

確かめておきたいのは次のポイントです。

  • 顧客が自社を選んでいる本当の理由は何か(価格?品質?対応スピード?安心感?)
  • 競合と比べたときの違いを、一言で言えるか
  • その説明は、社内の誰が話しても同じ内容になるか

ここが曖昧なままサイトを作ると、「きれいだけど何の会社かわからない」サイトが仕上がります。

誰に届いているのか——顧客像の解像度

「ターゲットは30〜50代の男性経営者」——このくらいの粒度では、サイト設計に落とし込めません。

BtoBなら、情報を探しているのは経営者本人なのか、担当者なのか。決裁者と情報収集者は同じ人なのか、別の人なのか。BtoCなら、購入を検討しているのはどんな場面で、何と比較しているのか。

実際のお客さまの顔を思い浮かべながら、次のことを言語化できるかが分かれ目です。

  • その人は普段、どうやって情報を探しているか
  • 自社に問い合わせる前に、何を見て、何と比較しているか
  • 最終的に「ここに頼もう」と決める理由は何か

この解像度が上がるほど、サイトのどこに何を置くべきかが具体的に決まります。コーポレートサイトの参考事例を見るときも、「自社の顧客像に近い業種のサイトはどう設計しているか」という視点で眺めると、得られるヒントが変わってきます。

どこで止まっているのか——事業のボトルネック

サイトを新しくしたい理由の裏には、たいてい「事業のどこかが止まっている」という課題が潜んでいます。

  • 認知はされているが、問い合わせにつながらない
  • 問い合わせは来るが、成約率が低い
  • 既存顧客のリピートが減っている
  • 採用に苦戦している

ボトルネックがどこにあるかによって、サイトに求める役割はまったく変わります。認知が課題ならSEO(検索エンジン最適化)やコンテンツの設計が重要になりますし、成約率が課題なら導入事例ページや比較コンテンツの充実が先決です。

「とにかくサイトをきれいにすれば解決するはず」と思いたくなる気持ちはわかります。でも、ボトルネックを特定しないままリニューアルすると、費用をかけた割に何も変わらない、という結果になりかねません。


整理しないまま進めると何が起きるか

整理しないまま進めると何が起きるか

事業整理を飛ばしてデザインに入った場合、制作の途中でどんな問題が発生するのかを具体的に見ていきます。

修正が「後出し」になる

事業の目的が曖昧なまま進めると、デザインが上がってきた段階で「なんか違う」が起きます。しかし、何が違うのかを言語化できない。結果として「もう少し高級感を」「もっと親しみやすく」といった抽象的なフィードバックが繰り返され、修正回数だけが膨らみます。

制作会社にとっても依頼者にとっても、これは不幸な状況です。追加費用が発生するケースもあれば、スケジュールが大幅に延びるケースもあります。最初に「何を解決するサイトなのか」が共有されていれば、フィードバックの基準がはっきりするため、修正も的を射たものになります。

社内で意見がまとまらない

事業の方向性が整理されていないと、社内レビューの場で意見が割れます。社長は「信頼感のあるデザイン」を求め、営業部長は「商品をもっと目立たせたい」と言い、広報担当は「採用にも使いたい」と主張する。全員の要望を足し算すると、どの目的も中途半端なサイトができあがります。

事前に「このサイトの最優先の目的は○○で、それを達成するために△△を重視する」と合意しておけば、意見が割れたときの判断基準になります。

公開後に「で、どうするの?」となる

サイトは公開してからが本番です。しかし事業整理なしで作ったサイトは、公開後の運用方針が決まっていません。

  • アクセス解析を見ても、何を改善すればよいかわからない
  • ブログやお知らせを更新する目的がはっきりしない
  • 半年後には更新が止まり、作りっぱなしの状態になる

リニューアルの成功事例を見ると、成果を出しているサイトに共通するのは、公開後の運用まで見据えた設計がされていることです。運用の方向性を決めるには、そもそも事業の目的が言語化されている必要があります。



制作プロセスから見る「問いを立てる」という考え方

制作プロセスから見る「問いを立てる」という考え方

ここまで読んで、「事業整理が大事なのはわかった。でも、プロの制作現場では実際にどう進めるのか」と気になった方もいるかもしれません。

事業整理を重視する制作会社では、プロセスの最初のステップを「問いを立てる」と位置づけることがあります。いきなりデザインに入るのではなく、「何のために、誰のために作るのか」を問うところから始めるという考え方です。

たとえば、次のような5段階でプロセスを組み立てるケースがあります。

ステップ やること
1. 問いを立てる 事業の現状を整理し、サイトが解決すべき課題を明確にする
2. デザインに落とし込む 整理した内容を、視覚的な設計に変換する
3. 作りきる 設計に基づいて、妥協なく実装する
4. 数字で確かめる 公開後のデータで、狙い通りの成果が出ているか検証する
5. 育て続ける 検証結果をもとに改善を重ね、サイトを成長させ続ける

ポイントは、デザインが2番目に来ていることです。そして「作って終わり」ではなく、「数字で確かめる」「育て続ける」まで含めてひとつのプロセスになっています。

戦略と制作と運用が分断されると、サイトの一貫性は少しずつ薄まっていきます。最初の問いが曖昧であれば、デザインの判断基準もぶれる。運用の方向性も定まらない。だからこそ、問いを立てることがすべての起点になるわけです。

この視点は、制作会社を選ぶときの基準にもなります。「デザインはどうしますか?」から始まる会社と、「事業の課題は何ですか?」から始まる会社では、プロセスの組み立て方が根本的に異なります。


発注前に自分でできる事業整理の手順

発注前に自分でできる事業整理の手順

事業整理をリードしてくれる制作会社もありますが、依頼する側がまったく準備せずに打ち合わせに臨むと、整理に時間がかかり、制作期間にも影響します。

以下は、発注前に社内で取り組める4つのステップです。

ステップ1:サイトの目的を一つに絞る

サイトに求める役割を洗い出し、最も優先度の高いものを一つ選びます。

  • 新規の問い合わせを増やしたい
  • 採用エントリーを増やしたい
  • 既存顧客向けの情報発信を強化したい
  • ECの売上を伸ばしたい
  • 企業としての信頼感を高めたい

「全部大事」と言いたくなりますが、優先順位がなければ制作の判断基準が作れません。「最優先はこれ。次点はこれ」という順番だけでも決めておくと、打ち合わせの密度が上がります。

ステップ2:顧客の情報を集める

既存顧客に関する情報を、できる範囲で集めます。

  • 直近1年で問い合わせが多かった業種・エリア・規模
  • 営業担当が「よく聞かれる質問」のリスト
  • 既存顧客が自社を選んだ理由(アンケートや口頭でのフィードバック)
  • 競合他社のサイトURL(3社程度)

完璧なペルソナ設計は不要です。「うちのお客さんはこういう人が多い」を営業やカスタマーサポートの現場から拾い上げるだけで、十分な材料になります。

ステップ3:現状サイトの課題を書き出す

リニューアルの場合は、今のサイトで何が問題かを具体的にリストアップします。

  • アクセス数は月にどのくらいか
  • 問い合わせフォームからの送信は月に何件か
  • スマートフォンで見たときに使いにくい箇所はどこか
  • 更新が止まっているコンテンツはないか

数字がわからない項目は、「感覚的にここが問題」という記述でも構いません。制作会社がデータをもとに検証を手伝ってくれます。BtoB企業のサイト事例ECサイトのデザイン事例を眺めて、「うちのサイトに足りないのはここだ」と気づくこともあるはずです。参考サイトを集めるときは、見た目の好みだけでなく「なぜ良いと感じたか」をメモしておくと、制作会社に伝わりやすくなります。

ステップ4:社内のキーパーソンを巻き込む

サイト制作でよくあるトラブルは、終盤になって決裁者から「聞いていない」と言われることです。

  • 最終的にデザインを承認する人は誰か
  • テキスト原稿を確認・修正する人は誰か
  • 公開後の更新を担当する人は誰か

この3つの役割を最初の段階で明確にし、キックオフの打ち合わせに同席してもらう。それだけで、後戻りのリスクは大幅に下がります。


よくある質問

よくある質問

事業整理は制作会社がリードしてくれますか?

会社によって対応範囲が異なります。ブランディングから手がける会社であれば、ヒアリングを通じて事業整理を一緒に進めてくれることが多いです。一方、デザインと実装に特化した会社では「要件を固めてからご依頼ください」というスタンスの場合もあります。見積もり依頼の段階で「事業の目的から一緒に整理してほしい」と伝え、対応範囲を確認しておくのが確実です。

小規模なサイトでも事業整理は必要ですか?

規模にかかわらず、最低限の整理は必要です。5ページ程度の小規模サイトでも、「誰に、何を伝えて、どう行動してほしいのか」が整理されていなければ成果にはつながりません。ただし小規模なら整理すべき項目も少ないため、大がかりなワークショップは不要です。「目的」「顧客像」「ボトルネック」の3点だけ明確にすれば十分です。

事業整理をすると見積もり金額は変わりますか?

整理そのものが直接金額を変えるわけではありません。ただし「本当に必要な機能」と「あれば便利だが優先度は低い機能」を区別できるようになるため、不要な機能を削って費用を抑えやすくなります。整理ができていないまま依頼すると「念のため全部入れておこう」となりがちで、見積もりが膨らむ原因になります。

事業整理の段階で制作会社に相談してもいいですか?

相談して問題ありません。むしろ、整理が完璧に終わってから声をかけるよりも、途中段階で相談したほうがスムーズに進むことが多いです。制作のプロは「どの情報がサイト設計に必要で、どこまで深掘りすべきか」を判断できるため、整理の方向性がずれるリスクを防げます。


まとめ

Webサイト制作が事業整理から始まるのは、サイトが「事業の課題を解決する道具」だからです。何を解決したいのかが曖昧なまま作り始めると、見た目は整っていても成果が出ない。修正が繰り返されて費用と時間が膨らむ。公開後の運用方針も定まらない。

発注前にできる準備は、難しいことではありません。

  1. サイトの目的を一つに絞る
  2. 顧客の情報を集める
  3. 現状の課題を書き出す
  4. 社内のキーパーソンを巻き込む

この4つを済ませてから制作会社に相談するだけで、打ち合わせの質が変わり、できあがるサイトの精度も上がります。デザインの前に、まず考える。問いを立てるところから始める。このプロセスを大切にできるかどうかが、サイト制作の成否を分ける大きなポイントです。