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WordPress向けレンタルサーバーの選び方|制作会社が納品後に困らない判断基準

この記事の対象: クライアントのWordPressサイトを制作・納品しているWeb制作者
読了時間: 約10分

自分のブログなら、好きなサーバーを選んで好きに使えばいい。でも、クライアントに納品するサイトではそうはいかない。

「納品後にサーバーの管理をどうするか」を考えずに契約すると、更新トラブルや移管作業で予想外の工数が発生する。料金の安さで選んだサーバーが、数年後の火種になる──制作の現場では珍しくない話です。

この記事では、制作案件でレンタルサーバーを選ぶときに見るべきポイントを、料金ではなく「運用で効いてくる項目」に絞って整理します。WordPressを前提に、案件の規模や体制ごとの判断軸を具体的に示します。


自分用と案件用では、選ぶ基準がまるで違う

自分用と案件用では、選ぶ基準がまるで違う

個人ブログやポートフォリオに使うサーバーなら、「速い」「安い」で選んで構わない。ところが、クライアントのサイトを載せるサーバーでは、以下の論点が加わります。

  • 納品後にクライアント自身が管理できるか
  • 制作会社を変更するとき、スムーズに移管できるか
  • 障害が起きたとき、誰がどう動けるか
  • バックアップと復元は、技術者がいなくても使えるか

表示速度や月額料金は比較サイトにいくらでも載っています。この記事ではそこに書かれない「案件運用で差がつく基準」を中心に扱います。


納品後に効いてくる5つの判断軸

納品後に効いてくる5つの判断軸

1. 移管のしやすさ

クライアントが制作会社を変えたくなったとき、サーバーごと引っ越しが必要になることがある。移管のハードルが高いサーバーを使っていると、それだけで乗り換えの障壁になります。

確認すべきは3点です。

  • ドメインとサーバーを別々に管理できるか──ドメインの管理とサーバー契約が一体化していると、サーバーだけの乗り換えが手間になる
  • WordPress簡単移行ツールがあるか──主要サーバーの多くが用意しているが、移行元の制限条件(ファイルサイズ上限など)は事前に確認が必要
  • データベースの直接エクスポートが可能か──phpMyAdminへのアクセスや、SSHでのmysqldumpが使えるかどうか

制作会社の変更と引き継ぎについて、発注者に渡しておくと助かる情報をまとめた記事もあります。

2. 権限とアカウントの分け方

案件ごとにサーバーを分けるのが理想ですが、コストの都合でひとつのサーバーに複数サイトを収容するケースも多いはずです。そのとき確認したいのが、権限をどこまで分けられるか。

  • FTP/SSHアカウントを案件ごとに発行できるか──クライアントや別の制作会社にアクセス権を渡すとき、全サイトが見える状態は避けたい
  • ディレクトリ単位のアクセス制限が設定できるか
  • WordPressのマルチサイトではなく、独立したインストールとして運用できるか──マルチサイトは管理上のリスクが大きく、案件用途には向かない

エックスサーバーやさくらのレンタルサーバなどは、複数ドメインを独立して管理しやすい設計です。一方、共用サーバーによってはFTPアカウントの追加に制限があるケースもあるので、契約前に確認してください。

3. 障害時の連絡と対応

サーバー障害は必ず起きるものとして備える。問題は「どう知らせてくれるか」と「どのくらいで復旧するか」です。

  • 障害情報ページの有無と更新頻度──リアルタイムで状況を確認できるか
  • サポートの連絡手段──電話対応があるサーバーは緊急時に助かる。メールのみだと初動が遅れる
  • 過去の障害履歴──各サーバーの障害情報ページを見れば、頻度と規模の傾向がわかる

クライアントから「サイトが見られない」と連絡が来たとき、自分で状況を確認して一次対応できる体制が要ります。サポートに電話がつながるかどうかは、想像以上に大きな差です。

4. バックアップの仕組み

WordPressはプラグインの更新やテーマの編集で壊れることがある。バックアップの自動取得とリストア(復元)の手軽さは、案件用サーバーの必須条件です。

確認項目 望ましい水準
自動バックアップ あり(毎日)
保持世代数 7日〜14日分
リストア方法 管理画面からワンクリック
リストア費用 無料
バックアップ対象 Web領域+データベース+メール

「バックアップは取っているが復元は有料」というサーバーも過去にはありました。契約前にリストアまで含めた条件を確認してください。各サーバーのバックアップ仕様は随時変更されるため、最新情報は必ず公式サイトで確認を。

WordPressプラグイン(UpdraftPlusなど)でのバックアップと、サーバー側の自動バックアップは役割が違います。プラグインは「テーマやプラグインの更新前に手動で取る用」、サーバー側は「気づかないうちに壊れていた場合の保険」。両方あるのが理想です。

5. WordPressの実用的な対応度

「WordPress対応」と書いてあるサーバーは多いですが、制作の現場で使うなら以下まで見てください。

  • PHPバージョンの切り替え──WordPressの推奨PHPバージョンは定期的に上がる。サーバー側で切り替えられないと、プラグインの互換性問題に対応できない
  • SSH接続の可否──WP-CLIを使うにはSSHが必要。テスト環境の構築や大量データの移行で作業効率が大きく変わる
  • サーバーキャッシュの挙動──キャッシュ機能が強すぎると、クライアントが「更新したのに反映されない」と混乱する。キャッシュの制御方法を確認しておく

WP-CLIとは、WordPressの管理画面を使わずにコマンドで操作するツールです。プラグインの一括更新やデータベースの操作など、管理画面では手間のかかる作業を効率よく実行できます。日常的に使うものではありませんが、トラブル対応や移行作業で威力を発揮します。



サーバーの契約名義をどちらにするか

サーバーの契約名義をどちらにするか

案件でサーバーを契約するとき、「制作会社名義にするか、クライアント名義にするか」は実務上の大きな論点です。

契約名義による運用の違い

クライアント名義

  • 制作会社を変えてもサーバーはそのまま
  • クライアント自身で契約状況を確認できる
  • 初期設定の説明コストがかかる

制作会社名義

  • 管理が一元化されて楽
  • 乗り換え時にサーバー移管が必要になる
  • 制作会社への依存度が上がる

原則として、クライアント名義での契約を推奨します。理由は単純で、制作会社名義にすると「制作会社を変えたいがサーバーが紐づいていて動けない」という状態が生まれるからです。

クライアント名義で契約し、制作会社にはサーバーパネルへのアクセス権限だけを渡す。この形がもっともトラブルが少ない。ドメインも同様に、クライアント名義での取得を基本にしておくと将来の移管がスムーズです。

ただし、クライアント側にITの窓口担当がいない場合は、契約手続きや支払い管理のサポートが必要になります。「名義はクライアント、初期設定と管理代行は制作会社」という役割分担を契約前に決めておくのが現実的です。

クライアント側の体制づくりについては、こちらの記事で詳しく扱っています。


私たちが実際に使っているサーバー

私たちが実際に使っているサーバー

判断軸を並べたので、実際にどう選んでいるかも書いておきます。

Soreiine!! を運営している制作会社では、エックスサーバーを主に使っていますエックスサーバー)。このサイト自体もエックスサーバーで動いています。決め手は表示速度と安定性で、WordPressを載せる前提なら不安が少ないからです。管理画面から複数ドメインを独立して扱えるので、案件ごとに区切って管理しやすいという実務的な理由もあります。

案件によってはさくらのレンタルサーバも使います。小規模で機能要件が軽く、コストを抑えたい場合です。老舗で情報が多く、引き継ぎのときに調べやすいのも利点です。

ドメインはバリュードメインで管理していますバリュードメイン)。取得と更新の管理画面がシンプルで、複数ドメインをまとめて扱いやすいためです。

どちらが正解という話ではなく、案件の規模と、公開後に誰が触るかで決めています。上に挙げた5つの判断軸を、自分たちの案件に当てはめた結果がこの構成です。

案件の条件別に、選び方を言い切る

案件の条件別に、選び方を言い切る

「どのサーバーが良いか」は案件の条件で変わります。条件ごとの判断軸を整理します。なお、各サーバーの料金プランは頻繁に改定されるため、金額は必ず公式サイトで最新情報を確認してください。

月間PV数千〜数万の一般的な企業サイト

もっとも多いパターン。更新頻度は月数回、ページ数は10〜30ページ程度。

この規模なら、主要レンタルサーバーのスタンダードプランで十分です。選ぶ基準は表示速度よりもバックアップの自動取得電話サポートの有無。クライアントが困ったときに自分が対応できる体制を最優先にしてください。

更新頻度が高いメディア・ブログ型サイト

記事を週に数本以上追加する運用では、サーバーの処理能力に加えてサーバーキャッシュの制御のしやすさが重要です。

記事を公開したのにトップページに反映されない、画像を差し替えたのに古いままで表示される──キャッシュに起因するトラブルはクライアントの不信感に直結します。管理画面からキャッシュを個別にクリアできるか、自動パージ(キャッシュの自動削除)の条件を設定できるかを確認してください。

小規模・予算が限られる案件

低価格帯のプランは月額費用を抑えられるため、予算が限られた案件では選択肢に入ります。ただし、自動バックアップの有無電話サポートの対応範囲はプランによって異なるため、安いプランで手薄になる部分をプラグインや手動運用で補う必要があります。

「安いサーバーでも大丈夫ですか」とクライアントに聞かれたとき、「大丈夫です」とも「ダメです」とも安易に答えない。何が削られるかを具体的に説明した上で判断してもらうのが、制作者としての正しい対応です。

ECサイトや会員機能があるサイト

SSL証明書の適用範囲、データベースの容量上限、同時接続数の制限──これらが厳しくなる案件では、共用サーバーの上位プランか、VPS(仮想専用サーバー)やクラウドサーバーの検討が必要です。「共用レンタルサーバーで無理に対応しない」という判断そのものが重要になります。


乗り換えのコストと、あとから効いてくる制約

乗り換えのコストと、あとから効いてくる制約

サーバーは一度決めると変えにくい。その理由を整理しておきます。

メールとWebが一体になっている問題

レンタルサーバーの多くは、Webサーバーとメールサーバーが同じ契約に含まれています。Webだけ別のサーバーに移したくても、メールアドレス(info@example.com など)がそのサーバーに紐づいていると、移行手順が一気に複雑になります。

対策としては、契約時点でメールはGoogle WorkspaceやMicrosoft 365などの外部サービスに分離しておくのが有効です。初期費用はかかりますが、サーバー移行時の影響範囲を小さくできます。

SSL証明書の再取得

多くのレンタルサーバーは無料SSL(Let’s Encrypt)を提供していますが、サーバー移行時にはSSL証明書の再取得が必要です。移行中にSSLの空白期間が生じないよう、切り替え手順を事前に確認してください。

独自機能への依存

特定サーバー独自のキャッシュ機構やセキュリティ機能に依存した構成を作ると、乗り換え時にその部分の再構築が必要になります。WordPressプラグインで代替できる機能はプラグイン側で実装しておくと、サーバーに依存しない構成になります。

サーバー移行時に影響が出る構成の分け方

移行しやすい構成

  • メールは外部サービスに分離
  • キャッシュはプラグインで管理
  • ドメインとサーバーは別管理

移行が大変な構成

  • メールもサーバー契約に同居
  • サーバー独自キャッシュに依存
  • ドメインとサーバーがセット契約

案件の初期段階で「このサーバーから将来離れるとしたら、何がボトルネックになるか」を考えておく。それだけで、あとからの手戻りは大幅に減ります。

納品後の運用体制全般についてはこちらの記事も参考にしてください。


よくある質問

よくある質問

クライアントにサーバーの契約を任せても大丈夫ですか?

IT担当がいる企業であれば問題ありません。担当がいない場合は、契約手続きの手順書を作成して渡すか、初回の契約作業を画面共有で一緒に進めてください。名義はクライアント、操作権限を制作会社に渡す形を最初に決めておくと、のちのトラブルを防げます。

制作会社が変わるとき、サーバーはそのまま使えますか?

サーバーの契約名義がクライアントであれば、制作会社が変わってもサーバーはそのまま使えます。FTP/SSHのパスワード変更と、WordPress管理者アカウントの引き継ぎだけで済むケースがほとんどです。

無料SSLと有料SSLはどちらを選ぶべきですか?

一般的な企業サイトであれば、無料SSL(Let’s Encrypt)で十分です。有料SSLが必要になるのは、組織の実在証明(OV証明書・EV証明書)を求められるケースに限られます。ECサイトでも、決済部分は決済代行サービス側でSSLが適用されるため、サーバー側は無料SSLで問題ないことがほとんどです。

表示速度はサーバー選びでどこまで変わりますか?

同価格帯の主要サーバーであれば、体感できるほどの差が出ることは少ないです。表示速度に影響する要因はサーバーよりも、画像の最適化・キャッシュ設定・テーマの設計のほうが大きい。サーバー選びの最優先基準を「速度」にするのは、判断軸としてずれています。

テスト環境(ステージング)は必要ですか?

案件の規模によりますが、本番環境で直接作業するリスクを考えると、テスト環境は持っておくほうが安全です。サーバーによってはステージング機能を標準で提供しているものもあります。なくても、サブドメインにWordPressをもう一つインストールして代用する方法で対応できます。


まとめ

制作案件でレンタルサーバーを選ぶとき、料金比較だけで決めると納品後に苦労します。移管のしやすさ、権限の分け方、障害時の対応、バックアップ、WordPressとの実用的な相性──この5つの軸で比較するだけで、選択肢はかなり絞られるはずです。

契約の名義はクライアントにしておく。メールは外部に分離しておく。サーバー独自の機能に依存しすぎない。この3つを守れば、サーバー起因のトラブルは大幅に減ります。

どのサーバーが正解かは案件ごとに変わりますが、「あとから変えるコスト」まで含めて判断するのが、クライアントの案件を扱う制作者の視点です。