この記事の対象: 納品後の解析環境を整えたいWeb制作者
読了時間: 約12分
サイトを納品したあと、クライアントから「アクセスはどうなっていますか」と聞かれる。GA4を入れてあるので数字は見られる。でも「どこで離脱しているか」「ページのどこまで読まれたか」を聞かれると、GA4の画面だけでは答えにくい。
この記事では、GA4を軸にしつつ「GA4だけでは拾えない情報」を補うツールの選び方を整理する。カタログ的にツールを並べるのではなく、案件の規模や運用体制から逆算して何を入れるべきかを判断できるようにすることが目的だ。
GA4だけでは見えないこと

GA4はページビュー、セッション数、流入経路、コンバージョンといった「量」の把握に強い。サイト全体の傾向をつかむには十分だし、無料で使える点も大きい。
ただし、以下のような「質」に関わる情報は、GA4の標準機能だけでは把握しにくい。
| 知りたいこと | GA4でできるか | 補足 |
|---|---|---|
| どのページが見られているか | ○ | ページビューで確認可能 |
| ページのどこまで読まれたか | △ | スクロールイベントは設定可能だが、25%刻みなど大まかな閾値のみ |
| ユーザーがどこをクリックしたか | △ | イベント設定で個別に追えるが、ヒートマップのような俯瞰はできない |
| フォームのどの項目で離脱したか | × | 別途イベント設計が必要で、設定の手間が大きい |
| ユーザーの操作を動画で振り返る | × | セッション録画の機能はない |
GA4は「何が起きたか」を数値で教えてくれるが、「なぜそうなったか」を探るには別の手段がいる。これが補助ツールの出番になる。
補助ツールの選択肢と判断軸

GA4と組み合わせて使われることが多いツールを、用途別に整理する。
ヒートマップ・セッション録画
Microsoft Clarity
無料で使えるヒートマップ・セッション録画ツール。Microsoftが提供しており、トラフィック量の制限がない点が特徴的だ。クリックヒートマップ、スクロールヒートマップ、セッション録画の3機能が揃っていて、GA4との連携も公式にサポートされている。
小〜中規模の案件で「ヒートマップを入れておきたいが予算はない」という場面では、まずClarityを検討するのが現実的な選択肢になる。
注意点として、データの保存期間に制限があること、フィルタリングの自由度が有料ツールほど高くないことは知っておきたい。料金体系や仕様は変わる可能性があるため、導入前に公式サイトで最新情報を確認してほしい。
Hotjar
ヒートマップ、セッション録画に加えて、ユーザーアンケート機能を備えたツール。無料プランでも基本的なヒートマップとセッション録画は使えるが、セッション数に上限がある。有料プランで上限が緩和される仕組みだ。
Clarityとの違いは、アンケート機能があることと、UIの作り込みが丁寧で非エンジニアのクライアントにも共有しやすい点。「クライアント自身にヒートマップを見てもらいたい」という運用なら、Hotjarの画面のほうが伝わりやすい場面がある。
料金プランは段階的に上がるため、月間セッション数が増えたときのコスト変化は事前に確認しておくこと。最新の料金は公式サイトで確認を。
レポート作成
Looker Studio(旧 Google データポータル)
GA4のデータを見やすいダッシュボードにまとめるための無料ツール。GA4の管理画面はクライアントに見せるには複雑すぎるので、定期レポートを出す案件ではほぼ必須になる。
GA4、Search Console、スプレッドシートなど複数のデータソースを一つのレポートに統合できるのが強み。テンプレートを一度作れば、データは自動で更新される。月次レポートの作成工数を大幅に減らせる。
検索流入の分析
Google Search Console
検索キーワード、表示回数、クリック率、掲載順位を確認できる。GA4では「どの検索キーワードで来たか」がほぼ見えなくなっているため、SEOの効果測定にはSearch Consoleが欠かせない。
GA4とSearch Consoleは連携設定をしておくと、GA4のレポート上で検索クエリを確認できるようになる。納品時にこの連携まで済ませておくと、クライアントへの報告がスムーズになる。
案件の条件別:何を入れるか

「どれも良いツールです」で終わらせても判断できない。案件の条件ごとに、入れるべきものを整理する。
月間PVが数百〜数千の小規模サイト
コーポレートサイトやサービス紹介サイトで、月間PVが少ない案件。
- GA4 + Search Console:この2つは必須。無料で維持コストもかからない
- Clarity:入れておいて損はない。無料で、PVが少なくてもセッション録画でユーザーの動きが見える
- Looker Studio:月次レポートを出す契約なら導入。レポート不要なら優先度は低い
この規模では有料ツールに予算を割く必要はない。GA4+Search Console+Clarityの組み合わせで十分な情報が取れる。
月間PVが数万の中規模サイト、更新頻度が高いサイト
オウンドメディアやブログを積極的に更新しているサイト。
- GA4 + Search Console + Looker Studio:更新の効果を定期的にレポートする必要があるので、Looker Studioでダッシュボードを作っておく
- Clarity または Hotjar:記事ページのスクロール深度やクリック状況を把握する。クライアントに直接ツールを触ってもらう運用ならHotjar、制作側で分析して報告する運用ならClarityで十分
CVが重要なサイト(EC・資料請求・問い合わせ)
フォームの離脱率やボタンのクリック率が売上に直結する案件。
- GA4のコンバージョン設定を丁寧に行う:ツールを増やす前に、GA4側のイベント設計を固めることが最優先
- ヒートマップは必須:CTA周辺のクリック状況、フォームページのスクロール状況を可視化する
- A/Bテストが必要なフェーズなら、VWOやAB Tastyなど専用のA/Bテストツールを別途検討する。ツールごとに無料枠や料金体系が異なるため、案件の規模に応じて比較すること
クライアント向けレポートの作り方

解析ツールを入れたら、次に問題になるのは「どう報告するか」だ。GA4の画面をスクリーンショットで貼り付けたレポートでは、クライアントは何を見ればいいか分からない。
見せる指標は3〜5個に絞る
クライアントに毎月報告する指標は、多くても5個に絞る。全部見せようとすると、どれが重要か伝わらない。
| サイトの目的 | 報告すべき指標の例 |
|---|---|
| 認知拡大(コーポレートサイト) | セッション数、ページビュー数、流入経路の割合 |
| リード獲得(サービスサイト) | セッション数、問い合わせ数、問い合わせ率 |
| 売上(ECサイト) | セッション数、購入数、購入率、売上金額 |
指標を決めるときは、サイトの目的から逆算する。目的が曖昧なままだと、毎月「PVが増えた・減った」の報告になり、クライアントも制作側も次に何をすればいいか分からなくなる。
Looker Studioでレポートを自動化する
Looker Studioを使えば、GA4とSearch Consoleのデータを1つの画面にまとめられる。テンプレートを一度作っておけば、データは自動更新されるので、毎月の作業は「変化のあった部分にコメントを書く」だけになる。
レポートの構成例:
この流れに沿ってLooker Studioのページを組んでおくと、クライアントが自分で開いても読める構成になる。レポートのURLを共有するだけで報告が完了する案件も出てくる。
ヒートマップのキャプチャを添える
数字だけのレポートに、ヒートマップのスクリーンショットを1〜2枚添えると説得力が変わる。「ページの下半分はほとんど見られていません」という報告が、色のグラデーションで一目で伝わる。
ClarityやHotjarのヒートマップ画像をレポートに貼り、「このエリアにCTAを移動しましょう」という提案につなげると、改善提案に具体性が出る。
乗り換え・導入時の落とし穴

ツール選びで見落としがちなのが、あとから効いてくる制約だ。
過去データの引き継ぎはできないと思っておく
ほとんどの解析ツールは、過去のデータを別のツールに移行する手段を持っていない。GA4からGA4への移行(プロパティの変更)でも、過去データは引き継げない。ツールを変えるタイミングでは「ここからゼロスタート」になる前提で計画を立てる。
だからこそ、最初の選定が重要になる。「とりあえず入れて、合わなかったら変えよう」が通用しにくい領域だ。
Cookie同意バナーの影響
プライバシー規制の強化に伴い、Cookie同意バナーを設置するサイトが増えている。同意を得られなかったユーザーのデータは取得できないため、計測できるセッション数が実際の訪問数より少なくなる。
GA4にはCookieなしでもある程度の計測を行うモデリング機能があるが、補助ツール側の対応状況はツールによって異なる。導入前に、Cookieの同意がない場合にどこまで計測できるかを確認しておく。
タグの管理が煩雑になる
ツールを増やすほど、サイトに埋め込む計測タグが増える。Google Tag Manager(GTM)で一元管理するのが定石だが、GTMの設定を誰が管理するかを決めておかないと、納品後にタグが放置される。
特に制作会社が変わるタイミングで、GTMのアカウント権限が引き継がれないトラブルは多い。タグ管理のアカウントはクライアント側で持つ運用をすすめておくと、あとのトラブルが減る。
納品時にやっておくべき設定チェックリスト

ここまでの内容を踏まえて、サイト納品時に済ませておくべき設定をまとめる。
- [ ] GA4のプロパティ作成とデータストリームの設定
- [ ] GA4のコンバージョンイベント(問い合わせ完了、資料DLなど)の設定
- [ ] Search Consoleの登録とGA4との連携
- [ ] GTMの導入と計測タグの一元管理
- [ ] ヒートマップツール(ClarityまたはHotjar)のタグ設置
- [ ] Looker Studioのレポートテンプレート作成(レポート契約がある場合)
- [ ] 各ツールのアカウント権限をクライアントに付与
このうち上の4つはほぼすべての案件で必要になる。ヒートマップとLooker Studioは案件の規模と契約内容に応じて判断する。
重要なのは、アカウントの権限をクライアント側にも付与しておくこと。制作会社だけがログインできる状態だと、会社を変えるときにデータへのアクセスを失うリスクがある。
よくある質問

GA4とClarityは併用しても問題ないですか?
問題ない。両方のタグを同じサイトに入れても、計測が干渉することは基本的にない。GA4とClarityは連携機能も公式に用意されており、GA4のデータをClarityのダッシュボードで参照できる。サイトの表示速度への影響も、通常の範囲であれば体感できるほどの差は出にくい。
ヒートマップツールは無料のClarityだけで十分ですか?
多くの案件ではClarityで足りる。クリックヒートマップ、スクロールヒートマップ、セッション録画の基本機能が無料で使えるため、まずはClarityで始めて不足を感じたら有料ツールを検討する順番で問題ない。ユーザーアンケートを取りたい場合や、クライアント自身がツールを操作する運用ではHotjarのほうが向いている場面がある。
クライアントにGA4の管理画面を直接見せてもいいですか?
見せること自体は問題ないが、GA4の管理画面は情報量が多く、Web制作に詳しくない担当者が見ても判断材料にしにくい。Looker Studioで必要な指標だけを抜き出したダッシュボードを作り、そちらを共有するほうが伝わる。GA4の閲覧権限はクライアントにも付与しつつ、普段はLooker Studioのレポートを見てもらう運用が現実的だ。
解析ツールはいつ設定するのがベストですか?
サイトの公開と同時にデータ取得が始まるよう、公開日までに設定を完了させる。公開後に「あとで入れよう」と先延ばしにすると、初期の流入データが取れない。特にリニューアル案件では、リニューアル前後の比較をしたいクライアントが多いので、公開日からデータが揃っている状態にしておくことが大切だ。
まとめ
GA4は解析の土台として欠かせないが、「ユーザーがページのどこで迷ったか」「どこまで読まれたか」といった質的な情報は、GA4だけでは拾えない。Clarityなどのヒートマップツールを補助的に入れることで、改善の手がかりが具体的になる。
ツール選びで大事なのは「高機能なものを入れること」ではなく、案件の規模と運用体制に合ったものを選ぶことだ。小規模サイトなら無料ツールの組み合わせで十分に回るし、レポートが必要な案件ならLooker Studioを加えるだけで月次の作業が楽になる。
そして、どのツールを選んだとしても、アカウントの権限をクライアント側にも持たせておくことは忘れないでほしい。解析データはクライアントの資産だ。制作会社が変わっても、データが途切れない環境を作っておくことが、制作者としての信頼につながる。





