この記事の対象: 自社サイトの新規制作やリニューアルで、WordPressかShopifyかを検討している企業のWeb担当者
読了時間: 約12分
「ECをやるならShopify、それ以外はWordPress」——この分け方で決めてしまう企業は少なくありません。ただ、制作の現場で両方のプラットフォームを扱っていると、この二択はかなり危ういと感じる場面があります。
コーポレートサイトとしての使い勝手、日々の更新にかかる手間、セキュリティの責任範囲、将来の拡張性。費用の数字だけを並べても見えてこない判断軸があり、そこを見落としたまま構築すると、あとから「乗り換えたいが移行コストが大きすぎる」という状況に陥りがちです。
この記事では、WordPressとShopifyをコーポレートサイトの観点で比較し、どちらが自社に向いているかを判断するための軸を整理します。
そもそもWordPressとShopifyは何が違うのか

設計思想の違い
WordPressは「コンテンツ管理システム(CMS)」として生まれたソフトウェアです。ブログから企業サイト、メディアサイトまで、あらゆるWebコンテンツを管理・公開するための仕組みを持っています。自分でサーバーを用意し、そこにインストールして使います。
一方のShopifyは「コマースプラットフォーム」です。オンラインで商品を売ることを前提に設計されており、カート・決済・在庫管理・配送設定が最初から組み込まれています。サーバーはShopifyが提供するため、自分で用意する必要はありません。
この出発点の違いが、コーポレートサイトとして使うときの得意・不得意に直結します。
ランニングコストの構造が違う
両者の費用を比較するとき、「初期制作費」だけを見て判断する企業は多いのですが、本当に差が出るのは月々の運用費の構造です。
WordPressの場合、サーバー代は月1,000〜3,000円程度で済みます。ところが、プラグインの更新やセキュリティパッチの適用、PHPバージョンのアップデート対応などの保守作業が別途必要です。これを制作会社に委託すると、月額1〜5万円程度の保守契約が一般的な水準になります。
Shopifyの場合、プラットフォーム利用料として月額数十〜数百USドル(プランにより異なる)がかかります。そのかわり、サーバー管理・セキュリティ・プラットフォームのアップデートはすべてShopify側が行います。保守作業を外部に委託する必要がないぶん、管理の手間は少なくなります。
ここで見落とされがちなのが「費用の予測しやすさ」です。WordPressは月額費用が安い代わりに、突発的なセキュリティ対応やプラグインの互換性トラブルで予定外の出費が発生しやすい。Shopifyは月額費用が高めに見えるものの、想定外の出費が起きにくい。この違いがあるため、年間トータルで見ると両者の金額差は見た目ほど開かないことがあります。
構成ごとの費用感を手早く把握したい場合は、費用シミュレーターで概算を確認できます。
コーポレートサイトで比較する5つの判断軸

「どちらが優れているか」ではなく、「自社の状況にどちらが合うか」で考える必要があります。制作の現場で実際に判断材料になっている5つの軸を解説します。
1. 更新運用のしやすさ
コーポレートサイトは作って終わりではありません。ニュースの更新・採用情報の追加・サービス内容の修正など、日常的に手を入れる場面があります。
WordPressは管理画面のカスタマイズ自由度が高く、投稿タイプやカスタムフィールドを設計すれば「担当者が迷わず更新できる管理画面」を作り込めます。ただし、その設計は制作時に行う必要があり、制作会社の力量に依存します。
Shopifyの管理画面はシンプルで直感的です。商品管理やブログ更新は初めてでも迷いにくい設計になっています。反面、コーポレートサイト特有のコンテンツ——事例紹介・IR情報・部署ごとのページなど——を管理しようとすると、メタフィールドやカスタムページの仕組みを使う必要があり、標準の管理画面だけでは対応しきれない場面が出てきます。
2. セキュリティと保守の負担
ここが両者の最も大きな違いであり、発注者が見落としやすいポイントです。
WordPress
- サーバー管理:自社 or 委託
- 本体の更新:自社 or 委託
- プラグイン更新:自社 or 委託
- SSL証明書の管理:自社 or 委託
Shopify
- サーバー管理:Shopify側
- プラットフォーム更新:Shopify側
- SSL管理:Shopify側
- テーマ・アプリ管理:自社
WordPressは「自分で面倒を見る範囲」が広いぶん、保守を怠ったときのリスクも大きくなります。プラグインの脆弱性を突いた改ざん被害は、制作の現場では珍しくありません。自社にIT部門がなく、制作会社との保守契約も結んでいない場合、WordPressのセキュリティ管理は大きな負担になります。
Shopifyはインフラ部分をプラットフォーム側が担うため、サーバーダウンや不正アクセスへの対応を自社で行う必要がありません。ただし、サードパーティ製アプリ(WordPressのプラグインに相当するもの)の品質やセキュリティは、利用者自身が見極める必要があります。
3. デザインの自由度
コーポレートサイトでは、ブランドの世界観をデザインで表現することが重要です。
WordPressはテーマの構造を自由に設計できるため、デザインの制約はほぼありません。オリジナルテーマを一から開発すれば、サイト全体をブランドに合わせて設計できます。自由度が高い=制作工数も増えるという関係は当然あるため、費用との兼ね合いになります。
Shopifyは「セクション」と呼ばれるブロックの組み合わせでページを構成する仕組みが基本です。テーマの範囲内であればノーコードでレイアウトを調整でき、運用担当者がページを追加・編集しやすい利点があります。一方で、テーマの構造から外れたレイアウトを実現するには、Liquidというテンプレート言語でのカスタマイズが必要です。Shopifyでデザインの自由度を確保したい場合、テーマ選びが最初の分岐点です。無料テーマ・有料テーマ・オリジナル開発のどれを選ぶかで、できることとコストが大きく変わります。
WordPressやShopifyで構築されたコーポレートサイトの実例は、Soreiine!! ギャラリーでも掲載しています。デザインの方向性を検討する際の参考にしてください。
4. 拡張の方向性
「今はコーポレートサイトだけだが、将来的にはECやメディアも持ちたい」という場合、拡張の方向性で判断が分かれます。
| 拡張したい方向 | WordPress | Shopify |
|---|---|---|
| ブログ・メディア運用 | 得意。標準機能で対応可能 | 可能だが、カテゴリ階層やURL設計に制約あり |
| EC(物販) | プラグインで対応可能。決済周りの信頼性は要検討 | 得意。最初から組み込まれている |
| 会員制・予約機能 | プラグインの選択肢が多い | アプリで対応。連携の安定性は高い |
| 多言語対応 | プラグインで対応。設計の自由度が高い | 標準機能で対応でき、設定が容易 |
| 外部サービス連携 | APIやプラグインで幅広く対応 | アプリストアで探す。無い場合はAPI開発 |
WordPressは「プラグインを足していく」拡張モデル、Shopifyは「アプリを足していく」拡張モデルです。どちらも拡張はできますが、WordPressはプラグイン同士の相性問題が起きやすく、Shopifyは拡張するたびにアプリの月額費用が積み上がる傾向があります。
5. 初期制作費と3年間のトータルコスト
初期制作費だけで比較すると、一般的には以下のような価格帯です。
| 構成 | WordPress | Shopify |
|---|---|---|
| テンプレート利用・5ページ程度 | 30〜80万円 | 30〜60万円 |
| オリジナルデザイン・10〜20ページ | 100〜300万円 | 80〜250万円 |
| 大規模(EC・会員機能含む) | 300〜800万円 | 200〜500万円 |
※ 上記は構成・機能要件による概算レンジです。同じ「オリジナルデザイン・10ページ」でも、見積もりが100万円の会社と250万円の会社では含まれている作業範囲が違います。安い見積もりに「初期設定のみ」「保守別途」「修正回数2回まで」といった条件がついていて、運用開始後に追加費用が発生するケースは珍しくありません。
費用の比較で本当に重要なのは3年間のトータルコストで見ることです。初期費用+月額費用+保守費用+突発対応費を合計すると、初期費用が安かったほうが結果的に高くつくケースもあります。前述のとおり、WordPressは突発的な保守費用が読みにくく、Shopifyはプラットフォーム利用料が固定で見通しやすいという構造の違いがあるため、初期費用の安さだけで選ぶと判断を誤ります。
見積もりに何が含まれていて何が含まれていないかを見抜く方法は、下記の記事で詳しく解説しています。
「EC+コーポレートサイト」を1つにまとめるという選択肢

「会社紹介のページとオンラインショップを1つのドメインで運用したい」という相談は増えています。この場合の選択肢は大きく3つです。
Shopifyでコーポレートサイトも兼ねるのは、ECが主目的で、会社概要・採用情報・お問い合わせが数ページあれば十分という場合に合理的です。ドメインが1つで済み、管理画面も1つ。運用負担が最も軽い選択肢です。ただし、コーポレートサイト側のコンテンツが増えてくると(月数回のニュース更新、事例紹介、IR情報など)、Shopifyのページ管理機能では物足りなくなる場面が出てきます。Shopifyでコーポレートサイトを構築する際の構成術はShopifyコーポレートサイトの会社概要ページの作り方でまとめています。
WordPressにEC機能を追加する場合は、WooCommerceなどのプラグインを使います。コーポレートサイトとしての自由度は維持したまま物販機能を追加できますが、注意点があります。ECの決済処理はセキュリティ要件が厳しく、プラグインの更新を怠ると決済情報の漏洩リスクにつながります。「少量の商品を扱う程度」なら十分ですが、本格的にEC運用を回すなら、専用プラットフォームのほうが安全面・機能面で有利です。
別々に構築して運用する方法は、それぞれのプラットフォームを最も得意な用途で使えるため、機能面では最適な構成になります。デメリットは、管理画面が2つになること、デザイン統一に手間がかかること、ドメイン運用の設計(サブドメインかサブディレクトリか)が必要になること。制作コストも2サイト分かかります。
どの構成を選ぶかは、ECの売上規模とコーポレートサイトの更新頻度のバランスで決まります。「どちらかが明らかに主」であれば、主となる側のプラットフォームに統合するのが最もシンプルです。
判断に迷ったときのチェックリスト

ここまでの判断軸を踏まえ、自社の状況に当てはめて確認してみてください。
WordPressが向いている場合:
- コンテンツ(ブログ・事例・ニュース)の発信量が多い
- デザインの自由度を最優先にしたい
- IT部門がある、または制作会社と保守契約を結ぶ前提がある
- EC機能は不要、もしくは補助的な位置づけ
- 既存のWordPressサイトがあり、記事やSEO評価を引き継ぎたい
Shopifyが向いている場合:
- ECの売上が事業の柱になっている
- セキュリティやサーバー管理に社内リソースを割けない
- コーポレートサイトのページ数が少なく、更新頻度も低い
- 越境EC(海外販売)を視野に入れている
- 保守にかかる「見えないコスト」を減らしたい
両方を使い分けるべき場合:
- ECが成長フェーズに入り、本格的なストア運用が必要になっている
- コーポレートサイト側でも事例紹介やメディア運用を積極的に行う予定がある
- 2つの管理画面を運用する人的リソースが確保できる
判断のポイントは「今」だけでなく「2〜3年後」を見据えることです。今はECが小規模でも、売上が伸びれば専用プラットフォームへの移行が必要になるかもしれません。逆に、今はページ数が少なくても、採用強化やコンテンツマーケティングに注力する予定があるなら、コンテンツ管理の自由度は重要になります。
プラットフォーム選びで軸がぶれないようにするには、サイトに持たせる目標を先に明確にしておくことが効果的です。
よくある質問

WordPressからShopifyへの移行は簡単にできますか?
技術的には可能ですが、「簡単」とは言えません。WordPress上のページ構成・URL設計・検索順位はShopifyにそのまま引き継げないため、リダイレクト設計やコンテンツの再構成が必要です。移行にかかる費用は、ページ数や機能にもよりますが、新規制作に近いコストを見ておくのが現実的です。移行の具体的な手順はWordPressからShopifyへの移行手順でまとめています。
ShopifyでもSEOは問題なくできますか?
基本的なSEO対策(タイトル・メタディスクリプション・見出し構造の設定)は問題なく行えます。ただし、URL構造に /collections/ や /products/ といったShopify固有のパスが入る制約があり、WordPressほど自由にURL設計ができません。ブログのカテゴリ階層も1階層のみという制限があるため、大量の記事をカテゴリで分類して管理したい場合には不便を感じることがあります。ShopifyのURL制約と回避策についてはShopifyのSEOとURL設計の制約|回避策まとめで詳しく解説しています。
小規模なコーポレートサイト(5ページ程度)でもWordPressは必要ですか?
必ずしも必要ではありません。5ページ程度で更新頻度も低いサイトであれば、WordPressの管理・保守コストが割に合わない場合があります。静的サイト(HTMLで構築する方法)やノーコードツールのほうがランニングコストを抑えられるケースもあるため、「そもそもCMSが必要か」という前提から見直すことをおすすめします。
WordPressとShopify、どちらが制作費は安いですか?
テンプレートを使った小規模サイトであれば、初期費用に大きな差はありません(いずれも30〜80万円程度が一般的)。差が出るのはカスタマイズの深さと運用フェーズです。WordPressはオリジナル開発の幅が広いぶん上限が高くなりやすく、Shopifyはアプリの月額課金が積み上がる構造です。初期費用だけでなく、3年間の総額で比較するようにしてください。
WordPressとShopifyを途中で切り替えることはできますか?
切り替え自体は可能ですが、実質的にはサイトの作り直しに近い工数がかかります。デザイン・ページ構成・URL設計がプラットフォームごとに異なるため、単純なデータ移行では済みません。特にSEO評価を引き継ぐにはリダイレクトの設計が不可欠で、対応漏れがあると検索順位が大幅に下がるリスクがあります。「あとから切り替えればいい」と楽観せず、最初の選定段階で2〜3年先の運用を想定しておくことが重要です。
まとめ
WordPressとShopifyの比較は、「どちらが優れているか」ではなく「自社の事業と運用体制にどちらが合うか」で決まります。
コンテンツ発信が中心でデザインの自由度を重視するならWordPress、ECが事業の柱でインフラ管理の負担を減らしたいならShopifyという大きな方向性は変わりません。ただし、「ECもコーポレートサイトも両方必要」という場合は、統合か分離かの設計判断が加わるため、自社の優先順位を整理したうえで制作会社に相談するのが得策です。
どちらを選ぶにしても、制作会社に声をかける前の段階で「自社サイトに何をさせたいか」「更新は誰がどのくらいの頻度で行うか」「3年後にどうなっていたいか」の3点を言語化しておくと、提案の精度が上がり、見積もりの比較もしやすくなります。



